40℃の夏:「温暖化のペースは予測通り」と気候科学の専門家

記事のポイント


  1. 2025年の夏は、日本をはじめ世界各地で、気温40℃を観測した地域が相次いだ
  2. 気候科学の専門家・江守正多東京大学教授は、気候科学の予測通りだと言い切る
  3. 地球温暖化の現在地と、世界で頭をもたげる自国第一主義が与える影響を聞いた

日本では今夏、気温40℃を観測した地域が相次いだ。世界でも同様だ。気候科学の専門家・江守正多東京大学教授は、気候科学の予測通りだと言い切る。江守教授に地球温暖化の現在地と、世界で頭をもたげる自国第一主義が与える影響を聞いた。(聞き手:オルタナ輪番編集長=吉田広子、池田真隆、北村佳代子)

江守 正多(えもり・せいた)東京大学未来ビジョン研究センター教授
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。

■温暖化の現在地は過去の予測通り

地球温暖化の状態を20年くらい前のシミュレーションと比べると、少しだけ良いニュースなのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が想定していた最悪のシナリオの軌道には乗っていない、ということだ。

世界中で化石燃料依存が続いたまま、最も排出量が増えるという最悪のシナリオは、再エネの普及に一定程度、世界が取り組めてきたことで回避できている。最悪シナリオに比べれば排出量の増加ペースもゆるやかだ。

しかし、それでも排出量はだらだらと増え続けており、今はもう少しで、排出量の増加を止められるかどうかのところにいる。

世界が目指しているのは、急激に排出量がゼロに向かって落ちていく姿だ。そこに向けては、全く足りていない。

気温の上昇ペースについては、当時から、大まかに約10年で0.2℃の上昇と予測していた。

現在の気温上昇もこの予想から大きくぶれていない。そしてこのペースでいくと、地球の平均気温は早晩、産業革命前から比べて1.5℃は超えてしまうだろう。

目指している状態には全然足りていないが、今までの取り組みが、全く効果がなかったわけではない。それが20年前の予測と照らした現在地だ。

20年前の当時は、世界で「ネットゼロ」など言っていなかった時代だ。当時はむしろ、地球温暖化は産業革命前の平均気温から「2℃」の上昇で止めればよいとされていた。自然による吸収量と人間活動による排出量がつりあうところまで抑えられれば、大気中のCO2濃度の上昇が止まり、海水温が熱慣性で遅れて上昇はしても2℃の上昇で収まるだろうというのが当時の見方だった。

10年前の2015年のパリ協定では「1.5℃」は努力目標だったが、18年にIPCCから「1.5℃特別報告書」が出されると、2021年のグラスゴー気候変動会議(COP26)で、1.5℃を目指す決意が合意された。

「1.5℃」には、2℃では深刻な被害を受けてしまう脆弱な人々を見捨てないという倫理と、それを目指すことによって良い世界を作っていくという希望が込められている。

提唱された当時は実現可能性があったが、今は極めて難しい。背景には、だらだらと排出量が増え続け、カーボンバジェット(1.5℃に留めるための炭素予算)をどんどん使ってきてしまった事実がある。

■自国第一主義が暗い影を落とす

気候変動は基本的に、世界で協力しないと止めることができない。排出量の多い富める国はもちろん、すべての国が脱炭素化に向かうことを、パリ協定で国際社会は決意した。

世界で頭をもたげる自国第一主義は、こうした国際協調には基本的には興味がなく、気候変動対策も否定・無視せざるを得ないというロジックになる、と言われる。従来型産業との結びつきが強い保守政権は、経済活動における規制を嫌う側面もあり、気候変動には後ろ向きになりやすい。そこに自国第一主義が加わり、国際協調までしないとなると、気候変動自体を否定するような考え方になってしまう。

米トランプ政権はパリ協定を脱退したが、次の大統領選の結果次第では戻ってくるかもしれないし、それ以外の国々の間では現状、脱炭素を目指し続けるビジョンを共有できている。

しかし、もし自国第一主義が台頭し、米国のようにパリ協定から脱退する国がどんどん増えると、残っている国だけで対策をしても温暖化は止まらないため、諦めてしまうことも起きかねない。それが一番心配だ。

再エネが安くなったので、再エネの利用が増えるというトレンドは続くだろう。しかしそれでも、温暖化を抑止するためのスピードとしては遅い。

温暖化がさらに進行し、世界平均気温の上昇が3~4℃ぐらいになると、世界中で、人類が住めないような気候帯がどんどん広がっていく。

そうなれば難民も増えるし、食糧も世界的に足りなくなる。国同士が、水、食糧、資源を奪い合い、難民を追い出そうとする、そうしたサバイバルゲームが起きてしまうことが、懸念される最悪のシナリオだ。

日本もどうなるかはわからない。自分の子どもや孫の世代を考えると、自国第一主義が台頭することで、十分恐ろしいことが始まりかねない、という危機意識はある。

■日本での脱炭素はメリットが大きい
中国は急速に脱炭素化を進めている
人類が脱炭素化を成し遂げるのを見てみたい

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧
キーワード: #気候変動#脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。