記事のポイント
- 欧州では資材価格の高騰を受け、洋上風力事業の入札制度の見直しが相次ぐ
- 英国では上限金額を66%引き上げるという大幅な価格見直しも行われた
- 三菱商事が洋上風力事業から撤退した原因は「入札制度」にもある
欧州では資材価格や輸送費などの高騰を受け、洋上風力事業の入札制度の見直しが相次ぐ。入札方式や上限価格の見直しなどを行い、事業の予見可能性を高める。専門家は、三菱商事が洋上風力事業から撤退した原因について、資材価格の高騰に対応していない日本の入札制度にも問題があると指摘した。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)
三菱商事が大型洋上風力事業からの撤退を表明したことを受けて、自然エネルギー財団は9月1日、政府に入札方式など早期の制度改革を訴えた。同団体は欧州では、建設費のコスト増などに対応し、制度改革に力を入れていることを伝えた。
■英国では上限金額を66%引き上げも
三菱商事は事業から撤退した理由として、建設費のコスト増を挙げたが、コストの高騰は海外でも共通の課題だ。欧州の洋上風力先進国においても、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによる労働力不足や化石燃料の高騰が、深刻な影響を与えている。
こうした状況に対応するため、欧州各国は制度改革に力を入れる。入札方式や上限価格の見直し、パイプラインの明確化による予見性の向上などだ。
例えば英国では2023年9月、保守党政権下にあったが、入札で洋上風力の事業者が現れなかったことを受け、2024年の次回入札で上限金額を66%引き上げたこともある。
この見直しによって価格は日本円換算で11.63円/kWhから19.30円/kWhに引き上げられた。
しかし、それでもインフレリスクなどを充分にカバーできていないとの指摘は根強い。今年実施される入札では、再び引き上げが行われ、契約期間も15年から20年に延長した。デンマークもゼロ入札発生後の入札に向けて同じような制度変更を考慮中だ。
■洋上風力は日本のエネ転換を支える
欧州とは異なる日本の課題として、許認可制度の複雑さと長期化、送電網建設や港湾整備の費用負担などがある。
ただし、自然エネルギー財団は、「これらは制度運用の見直しによって改善できる部分が大きく、こうした環境整備は入札制度改革以上に喫緊に取り組むべき課題である」と指摘した。
今年6月、政府は改正「再エネ海域利用法」を成立させ、従来は一般海域に限られていた洋上風力の開発を排他的経済水域に大きく広げた。洋上風力は、新たな産業基盤を築き、日本のエネルギー転換を支える重要な技術だ。この分野を日本に根付かせることは、日本の産業競争力を底上げする力となる。