記事のポイント
- 世界気象機関(WMO)がオゾン層の順調な回復軌道を報告した
- 今世紀半ばまでに1980年代の水準にまで、オゾン層は回復するという
- 過剰な紫外線の曝露がもたらす皮膚がんや白内障等のリスクの大幅な低減につながる
世界気象機関(WMO)は9月16日、オゾン層の回復が順調な軌道に乗っていることを報告した。今世紀半ばまでには、1980年代の水準にまで回復する見込みだ。これにより、過剰な紫外線への曝露に起因する皮膚がんや白内障、生態系の損傷といったリスクが大幅に減ることが期待される。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

「WMOオゾン報告書2024」を公開した
世界気象機関(WMO)は9月16日、人類が科学に基づきオゾン層の回復に努めた結果、オゾン層の回復が成功しているとする「WMOオゾン報告書2024」を公開した。
■科学に基づき、人類が協力してなし得た成功事例に
2025年は、ウィーン条約発効から40周年に当たる。ウィーン条約は、成層圏のオゾン層の破壊を地球規模の問題と認識し、オゾンの研究や体系的な観測、科学的評価において、国際協力を行う枠組みだ。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「40年前、各国は科学に導かれ、行動で結束し、オゾン層保護の第一歩を踏み出した。ウィーン条約とモントリオール議定書は、多国間協力の成功の礎となった。今日、オゾン層は回復しつつある。この成果は、各国が科学の警告に耳を傾ければ、進歩が可能であることを我々に思い出させる」と声明を出した。
モントリオール議定書によって、冷凍・空調・消火泡剤・ヘアスプレーなどに使用されていたオゾン層破壊物質を規制し、これまでにその生産・消費を99%以上削減した。
こうした人類の努力と行動により、オゾン層は今世紀半ばまでに1980年代の水準まで回復する軌道に乗っているという。過剰な紫外線に曝露することでもたらされる皮膚がんや白内障、さらには生態系損傷といったリスクの、大幅な低減につながる。
科学者らが初めて、オゾン層破壊に関する警鐘を鳴らしたのは1975年に遡る。WMOが「人間活動によるオゾン層の変化と幾つかの地球物理学的影響の可能性」と題する声明を発表した。
WMOのオゾン・太陽紫外線放射科学諮問グループで議長を務めるマット・タリー氏は、「モントリオール議定書は、その後の数十年間で、大きな成功を収めた。しかし、この取り組みはまだ終わっていない。世界は依然として、成層圏オゾンとオゾン層破壊物質およびその代替物質の両方について、慎重かつ体系的な監視を継続することが不可欠だ」と述べた。
「オゾン層を保護し、それによって人間・環境・農業の健全性を守ることは、SDGsゴールの3(健康と福祉)、13(気候変動対策)、2(飢餓ゼロ)、15(陸の豊かさを守ろう)をはじめとするSDGs達成に大きな進展をもたらした」(タリー議長)
■2024年、オゾンホールはさらに縮小した
WMOの速報によると、2024年の成層圏オゾン総量は、過去数年と比較して、地球の大部分で増加したという。毎年春、南極上空に現れる南極オゾンホールの深さは、2024年に、1990 年から 2020 年の平均を下回った。
オゾン質量欠損量(OMD)は最大4610 万トン(2024年9月29日)となり、2020 年から 2023 年にかけて確認された比較的大きなオゾンホールよりも小さかった。
国連環境計画(UNEP)とWMOは、4年ごとに共同でオゾン層破壊に関する科学評価の実施を主催する。2022年に実施された最新評価によると、オゾン層は南極上空では2066年頃、北極上空では2045年頃、その他の地域では2040年までに、1980年水準(オゾンホール出現前)に回復すると予測する。次回の評価は来年、2026年に実施する予定だ。
日本では、オゾン層保護法第22条第2項の規定に基づいて、毎年度、オゾン層の状況や規制対象物質のフロンなどの特定物質の大気中濃度、太陽紫外線の状況などの監視結果を取りまとめ、環境省が公表している。