記事のポイント
- アイルランド発のフードクラウドは、デジタル技術の活用で余剰食品を寄付を行っている
- 累計で約3億3890万食を提供し、42万5千トンのCO2排出量削減に貢献した
- 2030年までに10億食の寄付を目指し、そのモデルを世界各地に広げている

世界では毎年、食品ロスが大量に発生する一方で、日々の食事にも困る人々が数多く存在する。この食の不均衡問題に取り組むのが、アイルランド発のソーシャルエンタープライズ「FoodCloud(フードクラウド)」だ。食品メーカーや小売店が抱える余剰食品を、デジタル技術を活用して慈善団体に寄付する仕組みを構築。そのモデルを世界各地に広げている。(オルタナ輪番編集長・吉田広子)
アイルランド政府は2030年までに食品ロスを半減させる目標を掲げている。同国環境保護庁によると、1日あたり100万食以上が国内で廃棄されている。その一方で、国民の11人に1人が食料不足を経験しているという。
フードクラウドの創業者イシュルト・ウォード氏とオービーン・オブライエン氏は、ダブリン大学の社会起業支援プログラムで出会い、2013年にフードクラウドを設立した。
フードクラウドの最大の特徴は、テクノロジーを活用したマッチングの仕組みにある。食品関連企業が余剰食品の情報をデジタルプラットフォーム「フーディバース」に登録すると、近隣の慈善団体などにリアルタイムで通知が届き、すぐに受け取りの手配ができる。
小売大手のテスコ・アイルランドや高級スーパーのウェイトローズをはじめ、5600を超える小売店舗や企業が、このプラットフォームに登録している。
一方で、フードクラウドは、ダブリン市などの3都市で物流拠点を運営し、200社以上から定期的に食品の寄付を受け取っている。これらを通じて、約700の慈善団体を継続的に支援している。
■ 6カ国で事業を広げる
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フードクラウドは設立以来、累計で約3億3890万食を提供し、42万5千㌧のCO2排出量削減に貢献した。
現在はアイルランドにとどまらず、英国、チェコ、スロバキア、ケニア、インドネシアの6カ国で事業を拡大している。24年には経常黒字を達成し、成長を続ける。
23年には「フードクラウド・キッチン」を開始。調理場を持たない慈善団体のために、自前のキッチン施設で調理済みの食事をつくり、地域に提供する事業を始めた。

こうした取り組みは高く評価され、24年には「グッド・ガバナンス・アワード」を受賞。「オール・アイルランド・サステナビリティ・アワーズ」で「サステナブル・ビジネス・オブ・ザ・イヤー」を含む複数部門を受賞した。
フードクラウドは現在、「ワン・ビリオン・ミールズキャンペーン」を展開し、2500万ユーロ(約42億円)調達を目指している。2030年までに10億食の食糧寄付を実現するのが目標だ。
フードクラウドのイシュルト・ウォードCEOは、「余剰食品は『廃棄物』ではなく、『可能性』だ。栄養であり、希望でもある。食のサプライチェーン全体で意識を変え、持続可能性と思いやりが共存する食のシステムを築くために、ぜひ皆さんに協力してほしい」と呼び掛けている。