「海の王者」の悲劇が警告するもの 『シャークウォーター』

作品名:シャークウォーター(原題)、制作・監督:ロブ・スチュワート、制作国:カナダ

太陽の光が差し込み、蒼く光る海の中。優雅に泳ぐサメの群れをカメラは追い続ける。美しい海で人間と無邪気に戯れるサメの姿に、我々が恐れ嫌うどう猛なイ メージはない。人間につくり上げられた「海の王者」のイメージを根底から覆す映像美。制作者のサメへの深い愛情が、見る者の胸に深くしみわたる。

心洗われるような映像から一転、後半は無情な現実を映し出す。サメのヒレは、高級料理の食材として高値で売買される。密漁者たちは違法船上でヒレを切り落 とし、残りの魚体を海に蹴り落とす。目を疑うような光景を前にして、制作者や保護団体一行はなすすべがない。カナダ政府は違法な捕獲漁を黙認している。突 きつけられた現実に、フカヒレを重宝する日本人としては、怒りと恥ずかしさが交錯する複雑な感情を覚える。

『シャークウォーター』の根幹 に流れているのは、制作者ロブ・スチュワートのサメに対する情愛である。海洋生物学者のスチュワートは、強い思い入れを持って映画の出演・監督・カメラ・ ナレーションのすべてをひとりでこなす。しかし、彼が真に訴えるのは、単なる無垢な生物についての感情論ではなく、もっと深いところにある。

SHARKWATER

人間による乱獲で、サメの数は90パーセントも減少した。今では絶滅に近い状態に陥っている。ところが、サメを保護する世界規模の条約は何もな い。本作では、これらの事実がいずれ、サメだけではなく地球全体にとっての悲劇を招くと警告する。無視され続けている「海の王者」の惨劇は、やがて青い地 球をも襲うだろうと。

「サメは我々が地球上で最も恐れている生き物である。しかし、彼らなくして我々は生きていくことができない」。冒頭で スチュワートが語ったこの言葉にすべてが集約されている。この言葉の意味を理解した時、我々は今何をするべきなのかが自ずと見えてくる。大きなテーマを掲 げた秀作である。

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