TNFDを開示すれば良い時代は終わった: ネイチャー対応は「実装」の時代へ

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記事のポイント


  1. 欧州委員会は、循環型経済を進める「エコデザイン規則(ESPR)」の最初の作業計画を発表した
  2. 製品の耐久性や修理可能性などの情報を、デジタル製品パスポートを通じて消費者に提供する
  3. まずはアパレル、家具、マットレス、タイヤ、鉄鋼、アルミニウムから始める

企業のネイチャー対応は、TNFDレポートなどの「開示」の整備の段階から、現場での実装フェーズへと重心が移りつつある。環境省も、企業向けの実務支援ツールなどを相次いで公表した。生物多様性への対応を、経営と現場の両方で組み込む設計と実行が求められている。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

企業のネイチャー対応は実装フェーズへ

2026年度が始まって3週間が経ち、国際的にも国内的にも見逃せない発表が相次ぎました。一言で言えば、先進企業のネイチャー対応は、「開示をどう整えるか」から「現場で何をするか」へと重心を移し始めています。

しかもそれは企業側だけの空気ではなく、国際的な開示枠組みの側も、日本の政策の側も、同じ方向へ動いています。

私は、「一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」の会員企業に毎月ニュース解説をしていることもあり、日頃からこの分野の動きを追っています。この1カ月は気になる動きがかなり集中していましたので、今回はそれらをもとに、2026年度がどのような年になるかを考えてみます。

■「TNFDレポート」は「出して終わり」ではなくなった

まず注目したいのが、「自然の状態(State of Nature, SoN)」の指標をめぐる動きです。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)・GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)・SBTN(サイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアティブ)の3団体は2026年4月14日、ネイチャーポジティブ・イニシアティブ(NPI)が合意形成と試行を進めてきた「SoN指標」を、それぞれのフレームワーク・基準・ガイダンスにどう組み込むかについての共同ディスカッション・ペーパーを公表しました。そして、2026年6月4日までの意見募集を開始しました。

これはかなり大きな変化を象徴しています。

これまで多くの企業は、自然への依存・影響・リスク・機会をどう開示するか、つまり「企業の側」を見ることに力を注いできました。

しかしこれからは、自然そのものの状態をどう測り、改善につなげるかが問われるのです。サプライチェーンが依存する流域や産地の生物多様性が実際にどのような状態にあるのかを把握し、その改善に向けて何をするのかが評価される段階に入りつつある、ということです。

■環境省も実務の道具を一気に出してきた

こうした国際的な動きと並行して、2026年3月30日と31日に環境省は実務支援のガイダンス類を相次いで公表しました。

注目すべきは、これらのツールが実装の各段階に沿って揃っていることです。

まず、「食料・農林水産」「建設」「製造」の3分野を対象に、自然関連リスクと機会を体系的に洗い出す支援ツールです。

次に、地域金融機関向けの自然関連情報分析ガイダンス移行計画策定実践ガイダンスです。

さらに、化学物質管理をネイチャーポジティブの観点から再整理したアクションプランと、太陽光パネル導入時の生態系配慮を示す手引きまで発表しました。

環境省が「開示」の先にある具体的な行動を意識して、実務の道具を出し始めたことがはっきり読み取れます。

■問われるのは本社ではなく現場

こうして見ると、2026年度に問われるものは、かなりはっきりしています。本社で数字を集めてレポートを書くことではなく、その先、現場で何を動かすのか、です。

サプライチェーンの現場でどう動くのか。水をどう管理するのか。原材料のトレーサビリティをどう高め、より適切な調達へどう移行していくのか。「測って終わり」から「どう変えるか」への移行が、複数の分野で同時に始まっています。

■熊本からエレバンへの「二段階ロケット」

この流れは、2026年後半に向けてさらに鮮明になっていくはずです。

まず7月14日から16日には、NPIなどによる第2回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミットが熊本で開催されます。ビジネス、金融、自治体などの実践を加速させる場として位置づけられており、情報開示の次の段階が具体的に見えてくる機会になるでしょう。

そして、その延長線上には、10月19日から30日に、アルメニアのエレバンで開催される生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)があります。昆明モントリオール生物多様性世界枠組(KMGBF)の実施について初めてグローバルレビューが行われる重要な会議です。そしてCOPのテーマは、「自然のために行動する(Taking Action for Nature)」です。

熊本で先進企業・関係機関の実践を示し、エレバンで国際目標の進捗と実施を問い直す。2026年後半は、この二段階でネイチャーポジティブへの対応が本格的に加速する年になるはずです。

■現場と経営に組み込む

企業に今本当に必要なのは、分析だけではありません。分析結果を前提に、事業・調達・金融・現場の管理をどう変えていくか、その設計と実行が求められています。

またそのためには、生物多様性への対応を経営判断にどう織り込むか、内部プロセスの設計も欠かせません。

ネイチャー対応が「実装」の段階に入るということは、必要とされる活動も変わってくるということです。TNFD開示の次の一歩をどう踏み出すか、そして新たな機会をどう開拓するか。ぜひ一緒に考えましょう。

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)537(2026年4月20日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

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足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

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