ホルムズ危機が問う、「今こそ石油に振り回されない経営を」

山陽製紙バナー

記事のポイント


  1. ホルムズ海峡危機は、社会が石油に大きく依存していることの脆弱性を可視化した
  2. 石油への依存を減らすことは、地政学的リスクの抑制と経済安全保障につながる
  3. 再エネ移行や資源循環の取り組みが、石油に振り回されない経営の礎となる

ホルムズ海峡危機は、燃料だけでなく、化学製品、物流、農業、生活用品に至るまで、石油に大きく依存することの脆弱性を可視化した。依存の大きさが明らかになったからこそ、その依存を減らすことが、地政学的レジリエンスの確保と経済安全保障につながる。エネルギー面では再エネなどの分散型エネルギーへの移行が、プラスチックなど素材に関してはサーキュラーエコノミーのさらなる推進が、石油に振り回されない基盤となる。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

石油に振り回されない経営がレジリエンスと経済安全保障を高める

■ホルムズ危機の長期化は食糧危機も引き起こす

2026年のゴールデンウィークは、円安や航空運賃の高騰もあり、海外旅行はアジアなど比較的近場が人気だったと報じられています。さらに5月発券分から、国際線の燃油サーチャージも高止まりし、路線や航空会社によっては大幅な負担増となっています。かつてのように気軽に海外へ出かけることは、これから少しずつ難しくなっていくのかもしれません。

その背景にある大きな要因の一つが、米国・イスラエルとイランの戦争です。2026年2月末の開戦から2カ月以上が経過し、一日も早く平和が戻ることを祈るばかりですが、すでに事態は長期化の様相を呈しています。

原油価格の上昇はもちろん、石油由来のナフサを原料とするさまざまな化学製品、包装材、プラスチック製品にも影響が広がりつつあります。

サステナ経営塾22期上期バナー

問題はエネルギーに留まりません。FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界で取引される肥料の約3分の1(年間約1600万トン)がホルムズ海峡を通過しており、この地域への集中度はきわめて高い状態です。

さらに肥料製造に欠かせない硫黄については、湾岸地域が世界貿易のほぼ半分を占めているとFAOは指摘しています。事態はすでに「可能性」の段階を超えており、尿素の国際価格は開戦後の数週間で20~30%上昇し、WFP(国連世界食糧計画)は、ホルムズ封鎖が長引けば新たに4500万人が飢餓・飢饉に押しやられると警鐘を鳴らしています。

■「困るほど」の依存体質から考えるべきこと

世界がこれだけ深くつながっている時代において、戦争の被害は、もはや戦場だけに留まりません。エネルギー、食料、物流、化学製品、航空運賃、生活費など、あらゆるところに波紋が広がります。相互依存が進んだ世界において、戦争は世界中に大きな経済的・人道的損失をもたらす行為なのです。

しかし、こうした危機の中で、少し気になる言説も目立つようになってきました。

「だから、やはり原発が必要だ」
「石油がなければ社会は成り立たない」
「脱石油など、そもそも非現実的だ」

そうした意見です。

もちろん、現時点で私たちの社会が石油に大きく依存していることは事実です。原油が止まれば、燃料だけでなく、化学製品、物流、農業、生活用品にも深刻な影響が出ます。その意味で、「石油が重要である」という認識そのものは間違っていません。

しかし、そこから「だから石油依存を続けるしかない」と結論づけるのは、あまりに短絡的ではないでしょうか。

今回の危機が示しているのは、むしろ逆です。

私たちの社会が、いかに中東の石油、そしてホルムズ海峡という一つのチョークポイントに依存しているか。その脆弱性が、いま改めて可視化されているのです。

危機によって依存の大きさが明らかになったからこそ、その依存を減らす必要があります。困るから使い続けるのではなく、困るほど依存しているから、構造を変えなければならないのです。

■地域に根差した分散型エネルギー構造へ移行を

これは脱炭素であると同時に、地政学的レジリエンスの確保、そして経済安全保障の問題でもあるのです。

まず、エネルギーについて言えば、このような危機になる前に、もう少し再生可能エネルギーへのシフトが進んでいればと悔やまれます。しかし、過去を悔やむだけでは問題は解決しません。今こそシフトを加速すべきでしょう。

太陽光、風力、地熱、小水力、バイオマスなど、地域ごとに使えるエネルギーは異なりますが、重要なのは、海外から輸入する化石燃料に依存する巨大集中型のエネルギー構造から、地域に根ざした分散型のエネルギー構造へ移行することです。

あわせて、蓄電池、送電網の強化、需要側の調整、省エネ、建物の断熱、産業や交通の電化を進める必要があります。

■原発回帰はエネルギー安保の現実解ではない

ここで原発を「脱石油」の手段として持ち出す議論もあります。確かに、欧州では小型モジュール炉(SMR)への期待や、低炭素ベースロード電源としての原発の再評価が進んでいます。フォン・デア・ライエン欧州委員長は3月に「欧州が信頼性ある低排出電源(原発)に背を向けたのは戦略的誤りだった」と発言し、後述する政策でも原発の位置づけ見直しが議論の対象に入っています。これは真摯な再考に値する議論です。

それでも私は、現時点の日本に当てはめたとき、原発回帰には賛成できません。

第一に、原発事故は起きたときのリスクがあまりにも大きく、しかも私たちが完全にコントロールできるものではありません。第二に、日本で新しい原発を建設することは、コスト面でも政治的合意形成の面でも極めて難しく、仮に進めるとしても非常に長い時間がかかり、これからの問題解決には間に合いません。第三に、既存原発の活用も、老朽化に伴うリスク、追加安全対策、避難計画、使用済み核燃料の問題を避けて通れません。

つまり原発は、少なくとも今回のようなエネルギー安全保障上の危機への現実的な答えにはならないのです。むしろ必要なのは、高リスクで巨大な集中型電源に頼ることではなく、再エネを中心とした、より分散的で、柔軟で、レジリエントなエネルギーシステムをつくることです。

■「プラスチック依存」も見直しを

もう一つ、今回の危機が明らかにしたのは、私たちの生活がプラスチックに深く依存しているという事実です。

石油というと、多くの人はガソリンや電気、航空燃料を思い浮かべます。しかし石油は、エネルギーであると同時に、素材でもあります。

世界の原油の用途は、燃料(輸送・発電・暖房)が約85~88%、化学品・素材原料が約12~15%と推計されます。比率としては小さく見えますが、その「素材としての石油」が、食品包装、容器、衣料、建材、医療用品、電子機器、農業資材を支えています。現代社会は、想像以上に石油由来の素材に依存しているのです。

だからこそ、ここでも「プラスチックは必要だから石油が必要だ」と考えるのではなく、「プラスチック依存の構造をどう変えるか」と考えるべきです。

もちろん、すべてのプラスチックをすぐになくすことはできません。医療や食品保存、衛生、安全性の観点から、必要な用途もあります。しかし、使い捨てを前提にした過剰なプラスチック利用は見直す必要があるでしょう。製品を長く使う。修理できるようにする。素材を単一化し、再生しやすくする。再使用を前提に設計する。再生材やバイオマス素材に切り替える。こうしたサーキュラーエコノミーへの移行こそ、素材としての石油依存を減らす道です。

ここで重要なのは、エネルギーとしての石油依存と、素材としての石油依存を混同してはいけないということです。

・エネルギーの問題には、再エネ、電化、省エネ、蓄電、分散化
・素材の問題には、脱使い捨て、循環設計、回収、再使用、再生材利用

同じ「石油依存」でも、処方箋は異なります。そこを一緒くたにしてしまうと、「石油がないと困る。だから石油を使い続けるしかない」という、きわめて粗い議論に陥ってしまいます。

■危機への対応として、脱炭素とサーキュラーエコノミーが進む

もう一つ重要なのは、私たちがこれまで取り組んできたカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーは、まさにこうした危機への対応手段になっているということでしょう。現在の危機を踏まえれば、これらの取り組みはむしろ加速すべきなのです。

実際、欧州はそうした考えで今回の危機に臨んでいます。

欧州委員会は2026年4月22日、中東情勢による化石燃料市場の不安定化を踏まえ、「AccelerateEU(アクセルレートEU)」というエネルギー政策パッケージを発表しました。

短期的には燃料供給の監視、備蓄の活用、脆弱な世帯や産業への支援を行いながら、長期的にはEU域内のクリーンエネルギーと電化を加速し、化石燃料市場への依存をさらに下げるというものです。その趣旨は「変動の激しい化石燃料市場への依存を減らし、域内のクリーンエネルギーへの移行を加速する」と説明されています。

なお前述のように、AccelerateEUは再エネ・電化一辺倒ではなく、原発を「低炭素電源」として認定するための方法論の検討も含んでおり、「再エネを軸に原発も含めた多様化」という路線をとっています。日本と欧州の違いは、「再エネか原発か」という選択肢の中身そのものよりも、危機の読み方と対応の思想にあるように思います。

すなわち、危機を「依存強化の口実」にするのか、それとも「依存削減の契機」にするのか。

危機は、依存しているものの重要性を示します。しかし同時に、依存していることの危険性も示します。

■ホルムズ危機を前に企業が点検すべきポイントは

今回の中東危機から私たちが学ぶべきことは、「石油を守れ」ではなく、「石油に振り回されない社会をつくれ」ということではないでしょうか。

そのためには、再エネと電化を進めること。地域分散型のエネルギーを育てること。省エネと断熱を本気で進めること。そして、プラスチックをはじめとする石油由来素材については、脱使い捨てとサーキュラーエコノミーを進めること。

これは環境政策であると同時に、経済安全保障政策でもあるのです。

危機のたびに古い依存に戻るのか。それとも危機をきっかけに、より強靭で持続可能な社会へ進むのか。いま問われているのは、まさにその判断だと思います。

そしてそれは政府が決める政策だけではありません。たとえば、企業には次のような点検が求められます。

・自社サプライチェーンにおける石油・肥料・素材依存度の可視化
・エネルギー調達の地域分散化と再エネ比率の引き上げ
・製品設計における素材選択の見直し
・包装・容器の再使用・回収スキームの構築
・ 食品関連事業者であれば、肥料・農産物の調達地多様化と再生農業との連携

これらは「いつかやる」ものから、「いま着手する」ものへと位置づけが変わったのだと思います。危機は、構造転換のコストを下げてくれる稀な機会なのです。この機会をどう使うかが、これからの企業のサステナビリティ経営の真価を問うことになるでしょう。

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)538(2026年5月7日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

adachinaoki

足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。