サラヤの「ヤシノミ洗剤」が55周年、環境価値をブランドに

「OSAMU GOODS(オサムグッズ)」とコラボレーションした55周年記念ボトル© Osamu Harada/Koji Honpo
「OSAMU GOODS(オサムグッズ)」とコラボレーションした55周年記念ボトル© Osamu Harada/Koji Honpo

「川を汚さない洗剤をつくろう」という思いから生まれた「ヤシノミ洗剤」が、2026年に発売55周年を迎えた。1971年の誕生以来、「手肌と地球にやさしい」を一貫して追求し続けてきた。環境への取り組みが企業価値として評価される時代となるなかで、サラヤはどのような未来を描くのか。

「ヤシノミ洗剤の発売から55年が経ったが、そのうち40年は『冬の時代』だった。製品のコンセプトは変わっていないが、消費者が環境価値を評価してくれる時代に変わってきた」

サラヤの廣岡竜也・広報宣伝統括部統括部長は、振り返る。

ヤシノミ洗剤が生まれたのは1971年。当時主流だった石油系合成洗剤による河川や湖沼の汚染が社会問題となっていた時代だ。そこでサラヤは、「川を汚さない洗剤を作ろう」という思いから、植物(ヤシの実)由来の洗剤を開発した。

当初から掲げていたのは、「手肌と地球にやさしい」という理念だった。一般的な洗剤には香料や着色料などが使われることが多いが、サラヤは「必要のないものは加えない。その代わり、洗浄力や使い心地、環境性能など品質を高める」という考え方を貫いた。

そうした姿勢は、ブランドを象徴するステンドグラス風の透明ボトルにも表れている。中身を隠さず、そのまま見せるデザインは、余計な添加物に頼らず、品質で勝負するという意思表示でもある。

売上厳しくても「業界初」に挑戦

なぜヤシノミ洗剤は、競争の激しい洗剤業界で、ロングセラーになれたのか。

ヤシノミ洗剤はもともと業務用洗剤として開発された。学校給食センターなどで使われるなかで、「手荒れしにくい」に評判となり、「家庭でも使いたい」という声が上がった。その要望に応える形で、1979年に家庭用として発売した。

「植物由来の洗剤は当時まだ珍しく、決して安い商品ではなかった。低空飛行状態が長く続いたが、価値を理解してくださるお客さまに支えていただいた。創業者が諦めなかったことも大きかった」(廣岡統括部長)

こうした状況のなかでも、ヤシノミ洗剤は業界初の取り組みを次々に生み出してきた。

1981年には、食器用洗剤として日本初となるポンプ式ボトルを発売した。食器洗いの途中でも片手で洗剤を継ぎ足せるよう、ノズルの角度にまでこだわった。

背景にあるのは、「洗剤の使い過ぎを防ぎたい」という考えだ。一般的な食器用洗剤の洗浄成分濃度が30―40%程度であるのに対し、ヤシノミ洗剤は16%。過剰な使用を抑える狙いがあった。

さらに1982年には、食器用洗剤として日本初となる詰め替えパックを発売した。

「詰め替えを普及させるには、ボトルを長く使い続けてもらわないといけない。『キッチンに置いておきたい』と思ってもらえるデザインも必要だった」

そこで、1993年に誕生したのが、ステンドグラス風ボトルだ。商品名やロゴを最小限に抑え、商業色を極力排除。「詰め替える」という新たな習慣を提案した。

消費者とともにボルネオ守る

ボルネオで開発が進むアブラヤシのプランテーション

サラヤは業界に先駆けてパーム油の問題にも取り組み、認証植物油の使用や、寄付付き商品の仕組みもいち早く導入した。その大きな転機となったのが2004年だった。

当時、あるテレビ番組の取材を受け、洗剤の原料となるパーム油について「生産地のボルネオで森林破壊が進んでいる」という指摘を受けた。

同社はすぐに現地に調査員を派遣し、森林破壊が進み、野生生物の生息地が失われている実態を把握した。

絶滅の危機に瀕するボルネオゾウ
絶滅の危機に瀕するボルネオゾウ

廣岡統括部長は「ヤシノミ洗剤が『手肌と地球にやさしい』とうたう以上、川上から川下まで一貫して、環境への影響を考えるべきだ。使用量はわずかでも、その責任を果たさなければならないと判断した」と力を込める。

そこで、同社は2005年には日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟し、持続可能なパーム油の使用と普及を開始した。

2007年には、ヤシノミ洗剤シリーズ製品の売り上げの1%をボルネオの環境保全活動に寄付する取り組みも開始。当初は社内から反対の声もあったが、現地に足を運び実態を知る社員が増えるにつれて、徐々に理解が広がっていったという。

その後、2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を契機に、日本でも生物多様性への関心が高まるにつれ、サラヤの取り組みに対しても、社外からの評価が一段と高まった。

一方で、森林破壊は依然として続く。そこで重要な役割を果たすのが小規模農家だ。パーム油生産の約4割を小規模農家が担い、その数は世界で300万人以上に上るとされている。サラヤはこうした小規模農家が抱える課題に着目し、2017年からRSPO認証取得に向けた支援を行っている。

環境への対応は事業の機会に

対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い
対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い

ヤシノミ洗剤が55周年を迎えるなか、サラヤは海洋プラスチック問題という新たな課題の解決にも踏み出した。排水はやがて川から海へと流れ着く。だからこそサラヤは、ヤシノミ洗剤の原点である「環境を汚さない」という発想を、海の課題に広げた。

その一つが、長崎県対馬市で進める「対馬モデル」だ。サラヤは2022年、対馬市などと「対馬モデル」研究開発連携協定を締結した。海ごみや島内で発生する廃棄物を資源やエネルギーとして循環させることで、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を目指す。

「ボルネオの活動を通じて、消費者や他企業を巻き込みながら課題解決に取り組めることを学んだ。消費者との接点を持つメーカーだからこそ、海の課題を伝え、一緒に解決に向けた行動を広げていきたい」(廣岡統括部長)

 中東情勢が緊迫化するなか、サラヤが世界で初めて実用化した発酵から作り出す天然界面活性成分「SOFORO(ソホロ)」も、石油資源への依存を減らす技術として期待される。

環境対応を単なるコストではなく、機会と捉えてきた同社だからこそ、社会課題への挑戦から新たな技術や事業を生み出してきた。

「私たちは『ファーストペンギン』でありたい。最初に飛び込むのは簡単ではないが、誰かが始めなければ、『当たり前』はつくれない」(廣岡統括部長)

55年前、「川を汚さない洗剤をつくろう」という思いから始まった挑戦は、次の時代の「当たり前」につながっている。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。