生物多様性をめぐる動きが投資家・行政・国際協議で進む:企業は後手に

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記事のポイント


  1. 2026年10月の生物多様性COP17を前に、国内外で進展が見られる
  2. 投資家の多くは生物多様性を重大課題と認識し、環境省も推進体制を強化した
  3. しかし企業が直接関わる領域は、COP17直前会合で「遅れ」を指摘されている

2026年10月に開かれる生物多様性COP17を前に、生物多様性をめぐる動きが国内外で進展している。国内投資家の多くが、生物多様性を「重大」な課題と認識している調査結果が出たほか、環境省は、生物多様性ビジネス推進室を新設するなど、推進体制を強化した。しかし、COP17に向けた直前会合で「遅れ」を指摘された4分野のうち2分野が、企業が直接かかわる領域だ。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

大多数の投資家が生物多様性を「重大」と捉えている

生物多様性について、世界では2026年8月上旬からいろいろな動きがありました。投資家は、行政は、そして国際社会は、静かに、しかし着実に動いていました。今回は、そうした動きをご紹介します。

■大多数の投資家は生物多様性を「重大」と捉える

2026年8月12日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「GPIFの運用機関が考える『重大なESG課題』」2026年版を公表しました。

これはGPIF自身が課題を選んだものではなく、運用を委託している国内株式21・外国株式46・国内債券12・外国債券15、合計94の運用機関に「あなたが重大と考えるESG課題は何か」を尋ねたアンケートです。つまり、実際に企業の株や債券を運用している方々の、生の温度感が表れた結果です。

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その結果、生物多様性を「重大」と回答した比率は、国内株式パッシブで100%に達しました。気候変動などと並ぶ最高値ですが、そもそも100%というのは、なかなかあることではないと思います。国内債券でも83%、外国株式パッシブで75%、国内株式アクティブで73%と、いずれも高い水準です。

一方、同時に公表された企業向けアンケート(2026年1月実施、625社が回答、27テーマから最大5つを選択)では、生物多様性は27項目中14位、選択率は8.6%にとどまりました。前回調査の12位・8.4%とほぼ横ばいで、企業側の重要度認識はこの1年、ほとんど動いていません。

投資家の側ではほぼ100%が「重大」と答え、企業の側では1割にも満たない。この落差が、そのまま今の温度差です。投資家は、もう気候変動と同じ重さで生物多様性を見ています。

開示や統合報告書の作成に携わっている方は、この差を頭の片隅に置いていただけたらと思います。そして、この温度差をまず経営層に伝えること。それが今、一番大切なことかもしれません。

■環境省も生物多様性の推進体制を強化した

環境省は2026年8月1日、「生物多様性ビジネス推進室」を新設しました。既存組織の改称や改組ではなく、まったくの新設です(環境省令第21号、令和8年7月31日公布・8月1日施行)。自然環境局・自然環境計画課の下に置かれ、既存の「生物多様性戦略推進室」と並んで業務にあたります。

所掌事務は「生物の多様性の確保に資する経済への移行に関する施策の企画及び立案並びに調整に関する事務をつかさどる」とされています。同じタイミングで、環境経済課には「環境金融推進室」も新設されました(旧・市場メカニズム室の改組)。

環境省がこの2年間、ネイチャーポジティブの推進に非常に積極的なことは、これまでも紹介してきました。2024年3月には4省庁合同で「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定して国の戦略に位置付け、2025年7月にはこれをもとに環境省が単独で、かなり具体的な「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を公表しました。

今回の新設は、これを実際にリードする担当部署を、これまでの生物多様性戦略推進室からあえて独立させたということですから、本気度が伝わってきます。しかも、生物多様性を扱う室と金融を扱う室が、同じ日に、同じ環境省の中に生まれた。両者を結びつけていこうという意志の表れと読んでよいように、私には思えます。行政の体制は、往々にして政策の重心を先取りして示すものです。

■名指しされたのは、企業だった

今年は生物多様性条約(CBD)のCOP17が、10月19日~30日にアルメニアのエレバンで開かれます。これに先立つ準備会合として、7月27日~8月1日に「SBSTTA-28(科学技術助言補助機関 第28回会合)」、続けて8月4日~12日に「SBI-7(実施に関する補助機関 第7回会合)」が、ケニアのナイロビで開かれました。

ここで検討されたのが、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の進捗報告です。KMGBFは2022年12月にモントリオールのCOP15で採択された世界目標で、進捗を測る指標体系は、2024年10月のカリ(コロンビア)での議論を経て、2025年2月のローマ再開会合で正式に決まりました。

そして今年のCOP17で、いよいよ初めて進捗が評価されるのです。

CBD事務局長のアストリッド・シュマーカー氏は、評価の対象となった国別目標のうち、順調に進んでいるのは半数に満たないと述べています。特に遅れが目立つ分野として挙げられたのは、資金動員、有害な補助金の見直し、事業者の影響と依存関係への対応、持続可能な消費への転換の4つです。

このうち「事業者の影響と依存関係への対応」は、KMGBFの目標15にあたります。つまり、国際交渉の場で公式に「遅れている」と名指しされたのは、ほかならぬ企業の取り組みだったわけです。

目標15には自然関連の情報開示も含まれるため、TNFD等で開示は進めたと自負している企業人の方も多いと思います。それでも、世界の科学者と各国政府が集まる場での評価は「遅れている」でした。

しかも、企業に関わるのは目標15だけではありません。目標15は、影響と依存の評価・開示にとどまらず、「持続可能な生産パターンを確保する行動を促進する」ことや、消費者への情報提供も企業に求めています。

もう一つ、遅れが指摘された「持続可能な消費への転換」は目標16です。政策や制度、教育、情報へのアクセスの改善を通じて、食品ロスの半減や過剰消費の削減を含め、消費のグローバル・フットプリントを2030年までに衡平に削減する、という目標です。

もちろん消費者の努力に委ねるという話ではありません。商品の設計や売り方、食品ロスといった企業自身の問題であり、消費者が動きやすいように準備するのは企業の仕事です。遅れの目立つ4分野のうち、2つまでが企業に直接関わっている。そういうことになります。

これら3つを並べてみると、見えてくる構図はひとつです。投資家も、行政も、そして国際交渉の場も、そろって企業の方を向いています。日本では世の中が止まっていたはずのお盆の2週間に、これだけの動きが重なりました。偶然にしては出来すぎているようにも思いますが、実際に起きたことです。

COP17はもう2カ月後です。今すぐ特別なことを、とは言いません。ただ、私たちがのんびりしている間にも、世界は企業に行動を求めはじめている。そういう時期に来ている、ということだけは、お伝えしておきたいと思います。

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)545(2026年8月17日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

adachinaoki

足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

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キーワード: #生物多様性

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