「味の素 バードサンクチュアリ」の思い出

池の中では、ブルーギルやブラックバスなどのいない、フナを中心とした魚の世界が残り、周囲の林にはウグイスやシジュウカラ、メジロ、コゲラなどの小型の野鳥のほか、アオサギやカワウなど大型の水鳥も営巣し、四季折々に、カワセミなど年間50種を超える野鳥が飛来する。チョウトンボをはじめ様々な昆虫の住いと繁殖地にもなっている。

この池はまた、雨が降れば池になるということで「雨池」と呼ばれ、雨池町という地名の由来となった湿地の名残だった。湿地だった頃からの生きものが命をつなぐとともに、工場設立後に植樹された外周林など7000㎡近い緑地の生きものが共存する、まさに生命のオアシスでもあった。

利用されない福利厚生施設のままにしていてはもったいない、との思いが日増しに大きくなる。そして、滅多に人が来ないことで、このように豊かな生物相が形成されたのなら、いっそのこと、業務上のパトロール以外、人は入らないこととして保全したらどうか、という考えが徐々に頭をもたげてきた。

あるとき池沿いの物置に入ると、池側に窓があり、そこには水辺の緑の世界が広がっていた。ここを観察小屋とする「バードサンクチュアリ」というアイデアが浮かんだ。

実は、「ビオトープ」という呼び名も同時に考えていた。しかし、当時、例えば、小学校のプールに秋以降も水をたたえておき、翌年の夏になってプールとして使う前に、水位を下げてヤゴなどの生き物を観察するといった「ビオトープ」も多かった。

池と外周林を合わせて1万㎡を超える緑地を表すには、もっと大きな自然を連想できるものがよいと思った。それと同時に「サンクチュアリ」と命名して従業員も含めて立ち入りを制限したほうが、貴重な生物相を保全するという目的に合致すると考えた。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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