池の中では、ブルーギルやブラックバスなどのいない、フナを中心とした魚の世界が残り、周囲の林にはウグイスやシジュウカラ、メジロ、コゲラなどの小型の野鳥のほか、アオサギやカワウなど大型の水鳥も営巣し、四季折々に、カワセミなど年間50種を超える野鳥が飛来する。チョウトンボをはじめ様々な昆虫の住いと繁殖地にもなっている。
この池はまた、雨が降れば池になるということで「雨池」と呼ばれ、雨池町という地名の由来となった湿地の名残だった。湿地だった頃からの生きものが命をつなぐとともに、工場設立後に植樹された外周林など7000㎡近い緑地の生きものが共存する、まさに生命のオアシスでもあった。
利用されない福利厚生施設のままにしていてはもったいない、との思いが日増しに大きくなる。そして、滅多に人が来ないことで、このように豊かな生物相が形成されたのなら、いっそのこと、業務上のパトロール以外、人は入らないこととして保全したらどうか、という考えが徐々に頭をもたげてきた。
あるとき池沿いの物置に入ると、池側に窓があり、そこには水辺の緑の世界が広がっていた。ここを観察小屋とする「バードサンクチュアリ」というアイデアが浮かんだ。
実は、「ビオトープ」という呼び名も同時に考えていた。しかし、当時、例えば、小学校のプールに秋以降も水をたたえておき、翌年の夏になってプールとして使う前に、水位を下げてヤゴなどの生き物を観察するといった「ビオトープ」も多かった。
池と外周林を合わせて1万㎡を超える緑地を表すには、もっと大きな自然を連想できるものがよいと思った。それと同時に「サンクチュアリ」と命名して従業員も含めて立ち入りを制限したほうが、貴重な生物相を保全するという目的に合致すると考えた。