福島県の漁業は、東日本大震災から6年経った今も本格操業に戻れていない。その漁師たちの表情を2011年から3年半記録した映画を、この春、東京や大阪の劇場などが上映している。上映に先立ち、福島漁業の現状や漁師の生き方について、漁業経済学者と監督が語り合った。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)
ドキュメンタリー映画「新地町の漁師たち」の舞台となった相馬郡新地町(しんちまち)は、福島県沿岸部の北端にある。宮城県との県境に近いが、福島県漁業協同組合連合会の一員として原発事故後は漁業を全面自粛した。
2012年6月から、検査で安全が確認された魚種のみ「試験操業」を開始。魚の世代交代などに伴い不検出が増え、現在は震災前の約150種のうち97種を小規模に獲り、販売している。
同作品を2016年に完成させ、11都道府県で28回上映した山田徹監督は、「東北から離れるほど情報が届いていない。今は基準値(100ベクレル)超えが0.1パーセントまで落ち、それも出荷しない魚種に限られるが、福島で魚を獲って流通していることに驚く人もいた」と話す。
漁業経済学を専門とする濱田武士・北海学園大学教授は、「座して得られる情報ではないので、一般に広まりにくい。地元の買受人が対面で地道に伝えていくしかないのでは」と指摘する。
都心で育った山田監督は、生業を奪われても海辺を離れない漁師たちをカメラで追いながら、働くことや生きることを見つめ直した。「僕なら仕事を変えたと思う。漁師たちは海の仕事に強いプライドを持ち、故郷への想いも熱い。彼らの生きざまを見てほしい」と語った。
この映画は、東京電力の汚染水対策をやむなく容認した漁師たちの葛藤の記録でもある。濱田教授は「競争しつつ共存してきた漁師は、信頼を重視する。腹を割って何度も話さないと納得しないし、リーダーの責任も重い。そういう漁業者の社会がよく描かれていた」と評す。
東京ではポレポレ東中野で3月24日まで上映。祝日の20日は、上映後に「福島県の海産物のいま」と題したトークイベントを開催した。大阪では第七藝術劇場で18日から上映。その他、4月にかけて北海道や福島での上映も決まっている。
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