東京チェンソーズの新事業「森デリバリー」

補助金だけに頼らず、顔が見える林業を目指しユニークな取り組みに果敢にチャレンジしている株式会社 東京チェンソーズが、また新しい事業を始めた。その名も「森デリバリー」。東京 青山の国連大学前で毎週末に開かれているファーマーズマーケットで専任スタッフの関谷駿さんにお話を伺った。

森デリバリー・専任スタッフの関谷さんと専用車両(東京・青山 ファーマーズマーケット)

木を伐るから木で作る仕事へ

関谷さんは学生時代から林業に興味を持ち、東京チェンソーズでインターンとして現場の仕事を体験した。卒業後も林業を続けようと考えていたが、東京チェンソーズ社長の青木亮輔さんから“木育サミット”というイベントを紹介された。以前から木工が趣味だった関谷さんは、「木で何かを作ることを仕事にしたい」と思い、木のおもちゃづくりの会社に勤務。その後、独立して木工の仕事を始めた時に、青木さんから森デリバリー事業に誘われた。森林を守り育てていくには、木を植えたり伐ったりするだけではなく、木を使っていくことも大切だ。そのためには人々の暮らしの中でもっともっと木を使ってもらおうと考え、昨年から専任スタッフとして活躍している。

補助金を活用して専用車両を導入

東京都 檜原村の株式会社 東京チェンソーズは、「東京美林倶楽部」(http://www.alterna.co.jp/14854)や東京の木を使った家づくりを推進する”TOKYO WOOD”への参加など、普通の林業会社の枠組みを超えたユニークな事業展開をしている。新規事業の「森デリバリー」では、社内に事業部を設け、東京都の「地域資源活用イノベーション創出助成事業(地域中小企業応援ファンド)」の補助金を活用して軽トラックの荷台に木製の小屋を備え付けたインパクトある専用車両を導入した。

荷台がタイニーハウスになった森デリバリー専用車両(東京・日比谷公園)

何故、森デリバリーを始めたのか

森デリバリーを始めるにあたって背景が3つある。1つ目が東京チェンソーズの「美しい森を育み、活かし、届ける」という『企業理念の実践』だ。「伐採後も見た目が美しい森にしたい」という思いが強くあった。二つ目が『体験型イベントの集約化』。今までは依頼がある度に、丸太切りや木のスプーンづくりなどを行っていたが車両も含めてパッケージ化することにより「東京チェンソーズの体験型イベントはこれだ!」と明確に位置付けたかった。3つ目が、1つ目の背景とも関連するが、伐採時に出る枝や葉など『未利用材の有効利用』だ。細かったり短かったりで建築用材として出荷できない枝や幹の末端部分も木工用としてなら十分利用できる。

社有林で採ってきた枝・葉なども販売。使い方は自由。(東京・青山 ファーマーズマーケット)

1本の木を無駄なく商品化

林業の世界では木(材)は立米という単位で表す。2016年の木材価格※は、スギで1立米12,300円、ヒノキで1立米17,600円だった。青木さんによると1立米3万円で取引できれば補助金に頼らなくても採算が取れ、5万円なら伐採後の植林費用もまかなえるという。しかし、理想と現実の間には大きなギャップがある。東京チェンソーズでは、いちばん根元の太い部分の元玉と二番玉は地元の製材所で製材し自社で自然乾燥させてあきる野市の木工所に出荷し、3番玉、4番玉を建築用材としてTOKYO WOODに買い取ってもらうようにして、1本の木を少しでも高い値で売れるように工夫している。さらに、今までは林内に放置していた枝・葉、幹の末端部分などの未利用材を商品化して販売することができれば、理想の金額に近づけることができ、補助金に頼らない林業へ一歩近づくことができる。

森から町へ飛び出し、人々との接点をつくる

森デリバリーは「スーパーでやってる新製品の実演販売のイメージ」だという。「東京チェンソーズの間伐材や枝・葉でこんなことができるんですよ!」ということをワークショップや出店販売を通じて知ってもらうのが狙いだ。

すでに実施している「東京美林倶楽部」は町の人に森へ来てもらう取り組みだが、「森デリバリー」は、森を町の人の元へお届けする活動だ。幼稚園や保育園に出向いて子どもたち向けのワークショップを開催し木に親しんでもらい、作ったものは持ち帰り活用してもらう。また、都心で開催されている様々なイベントにも出かけて行ってワークショップや出店販売を行っていく。

幼稚園や保育園では、最初はスタッフがワークショップを実施するが、2年目からは先生方にお任せして枝や葉など素材だけを提供していくようにする。都心でのイベントでは、木工作家や様々なクリエイターとの出会いも期待している。素材を作品づくりに継続的に使ってもらえるように働きかけていきたい。「草の根活動ですが、森デリバリーを通じて今までは山に置き去りにされていた部分も素材として販売していくことで、森はきれいになり、一本の木の売上額も上がっていきます」と関谷さんは語る。

森とは縁のない人たちに東京の森のことを伝える。(東京・青山 ファーマーズマーケット)

森デリバリーの今後に期待

東京・青山の国連大学前で開催されているファーマーズマーケットは、毎週末、大きな賑わいをみせている。産直の野菜や果物、フードカートで提供される軽食や飲み物に誘われてくる人がほとんどだが、木の枝や丸太に目を止める人も多かった。この日は、東京チェンソーズ社有林の間伐材を使ったキャンドルやコースターとして使える丸太を輪切りにしたもの、スワッグづくりの素材として利用できる檜の葉などを販売した。関谷さんは、あるお客様から「木をこんな風に利用するなんて、素敵なことをされていますね」と言われ、森デリバリー活動に手ごたえを感じたという。

今後は、さらに商品を増やし、ワークショップの内容も充実させていく予定だ。また、未利用材の活用方法として、アウトドアブランドと協力してキャンプやバーベキュー用の薪材の販売も検討している。

一時に比べれば材価の下落は収まってきているとはいえ、まだまだ林業経営は茨の道。その中で、ただ口を開けて補助金を待つのではなく、発想力とデザイン力と行動力を武器に森をデリバリーして事業化しようという東京チェンソーズの挑戦に拍手を送りたい。

※平成28年度 森林・林業白書 第Ⅳ章 木材産業と木材利用 (3)木材価格の動向より

●森デリバリーは、下記のイベントへの出店を予定している。興味を持たれた方は、訪れてみてはいかがだろう。(2018年3月6日時点での情報)
※開催場所へのアクセスや開催時間等は各イベントホームページ等をご参照ください。また、予告なく予定が変更になる場合もありますので、お出かけの際は各イベントホームページ等でご確認ください。

・4/15(日):武蔵野公園 育樹祭イベント
・4/28(土)、5/1(火)2(水)、6(日):二子玉川 太陽と星空のサーカスin二子玉川ライズ2018 あそぶの祭り
・4/29(日)30(月):お台場 都会の農園イベント
・5/3(木)4(金)5(土):六本木アークヒルズ GWイベント

参考:東京チェンソーズのHP  http://tokyo-chainsaws.jp/

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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