ジャパン・プラットフォーム 失敗の本質③

■「助成金は捨て金」か

秋元氏は現在外務省OBとしてJPFの理事を務めているが、「ダムや道路を建設すれば何百億、何千億円とかかる。それに比べたらJPFに拠出している50億円なんてわずかなもの。NGOは大したことはできないが、紛争地や被災地に日本人の顔をした人間がいるというのが大事なんだ。だから捨て金でいいんだ」というのが口癖で、NGOはもちろん他の理事からも批判が出ている。

汗水たらして納めた50億円もの税金をそんなに簡単に捨て金にされては困るが、軍事的貢献ができない日本としては、NGOが外交上使えるひとつのコマだというのは外務省の本音なのだろう。

■巨額資金をバックにNGOに干渉

もはや、外務省は、経済界とどう協力し合うか、市民、国民の支持をいかに集めるかといったJPFの目指す理想には興味を示さず、巨額のODA資金をバックにしたNGOの下請け化がじわじわと進んでいるように見える。

国家権力の下請けではもはやNGOではないし、誰も応援してくれない。外務省とNGOでは役割が異なるのだ。国は過度の干渉を慎むべきではないか。例えば、NGOに対する危険度の高い活動地域への制限である。危険でもニーズがあれば支援に行くのがNGOである。援助のプロであるNGOが、どういう活動するかは基本的に彼らの判断に任せた方が良い。ミャンマーでは、こんな指示をしたことがある。

「JPFはミャンマー政府の支配エリアを担当してほしい。少数民族エリアは××が行うので、少数民族側に直接コンタクト、支援はしないように」。NGOを外交の道具と考えている証拠だが、NGOの中立性を損なう行為と言えまいか。

■不正の解明を

一方で、外務省はJPFの公正な運営を阻害している。JENの不正が発覚し、JPFがその事実を公表しようとした時、外務省から待ったがかかった。「来年度のJPF予算を国会で審議中だ。公表は審議が終わってからにしてほしい」。情報公開に消極的な隠蔽体質は批判されてしかるべきであろう。

アドラ・ジャパンへの助成金が、EUから経済制裁を受けているシリアのアサド大統領夫人が設立し今も代表を務める慈善団体に流れたことが分かった際には、外務省はJPFの常任委員会で「制裁対象になっているのは夫人個人であり、慈善団体は問題ない」「制裁を課しているのはEUであり、日本政府は関知していない」という信じがたい発言をしている。

真相解明のための調査委員会設置に反対したのも自身の責任を問われるのを恐れているのか。アドラからシリア側へ助成金が流れた時の契約書が偽造という疑いまで出ているが、外務省は相変わらず説明責任を果たそうとしない。

河野外相はNGOに理解があり、外務省はJPFへの拠出を100億円まで増やしたい意向と伝えられる。助成金はむやみに増せば良いというものでもない。NGOは市民、国民の支持が大前提だからだ。外相も不正には厳しい政治家である。外務省はJPFの本来の理念に立ち返り、不正の解明、今後の予防策を含め公正な運営、ガバナンスの改革に寄与して社会の信頼を取り戻してほしいものである。(完)

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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