ボルネオに「緑の回廊」を、野生生物の命をつなぐ

◆サラヤ
東南アジアにある生物多様性の宝庫、ボルネオ島。熱帯雨林に覆われ、希少な野生生物が生息するが、パーム油の原料となるアブラヤシプランテーション(農園)の拡大によって絶滅の危機に瀕している。この事実を知ったサラヤは2004年、ボルネオの生物多様性保全活動を開始。森を守る「緑の回廊計画」のほか、持続可能なパーム油の利用を進める。(オルタナ編集部=吉田広子)

群れで長い距離を移動しながら生活するボルネオゾウ。絶滅危惧種に指定されている

2004年12月、サラヤ現地調査員の中西宣夫氏は初めてボルネオに足を運んだ。パーム油の最大生産地であるボルネオで、何が起きているのかを調べるためだ。

「緑が生い茂るジャングルを歩くと、多様性と生命力に満ちているのを感じた。一方で、熱帯雨林は減少し、野生生物が生息地を失っているという現実にも直面した。この魅力的な場所が失われようとしていることに危機感を覚えた」

■少量でも責任を果たす

ボルネオ環境保全活動年表

ボルネオは、マレーシアとインドネシア、ブルネイの3つの国に属する世界で3番目に大きい島だ。世界で急速に高まるパーム油需要に応えるため、大規模なプランテーション開発が進んだ。その結果、ボルネオを覆っていた熱帯雨林は大幅に減少。多くの動植物の絶滅危機を招いた。

生産されたパーム油の85%は「食用」で、チョコレートやスナック菓子、即席めんなどさまざまな食品に使用されている。残りの15%は「非食用」で、石けんや洗剤に使われるのはそのうち数%。大手メーカーに比べればサラヤの使用量はごくわずかに過ぎない。

それでも「パーム油を使う企業として責任がある」という思いから、サラヤはボルネオの生物多様性を守るプロジェクトを立ち上げた。さらに、2005年には日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟した。

サラヤコミュニケーション本部広報宣伝統括部の廣岡竜也統括部長は、「当社がパーム油の使用を止めても、ボルネオの問題は解決しない。しかも現地農民の生活もある。ならば『購入者』という立場をうまく使って、他社や現地政府を巻き込みながら持続可能なパーム油の生産と環境の両立を目指すことが当社の責任ではないかと考えた」と話す。

■分断された森をつなぐ

ボルネオに広がるプランテーションによって森が断絶された

プランテーションの拡大は野生生物にどのような影響を与えるのか。中西氏は「ゾウはエサを求めて森を移動するが、プランテーションによってその道が断絶された。ゾウだけではなく、オランウータンやテングザルなど多くの野生生物が行き場を失っている」と説明する。農園を荒らさられるのをいやがる農民が罠を仕掛けることもあり、好奇心の強い子ゾウはケガをしてしまう。群れごと殺され、孤児になったゾウも少なくない。

そこでサラヤはボルネオの環境を守り、野生生物を救出するため、マレーシア・サバ州野生生物局と協力し、国際NGO「ボルネオ保全トラスト」を立ち上げた。代表的なプロジェクトが「緑の回廊」計画だ。サバ州の中心を流れるキナバタンガン川沿岸の開墾地を買い戻して森に再生し、分断された熱帯雨林を一つにすることで野生生物の生息地を作ろうという壮大な計画だ。

より多くの人にボルネオの現状を知ってほしいと様々なチャネルから情報を発信するとともに、対象商品を購入すると、売り上げの1%がこの計画に寄付される仕組みも整えた。対象は主力ブランドである「ヤシノミ洗剤」をはじめとするパーム油利用製品。消費者の支持を集め、2007年の開始以来、16・25㌶もの森を取り戻すことができた。

■日本初RSPO認証商品

サラヤは持続可能なパーム油の調達にも力を入れる。2010年には世界で初めてRSPO認証油を使った商品を発売。現在はRSPO認証油をほとんどの商品に採用している。

こういったサラヤの取り組みは、現地のパーム油産業だけでなく、消費者の意識も変えてきた。持続可能な原料調達を行い、商品を通じて消費者と共に社会課題の解決を目指す。この社会を良くするビジネスモデルは、サラヤブランドを確かなものにしている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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