■『創発型責任経営―新しいつながりの経営モデル』(共著/國部克彦・西谷公孝・北田皓嗣・安藤光展、日本経済新聞出版社)
グローバルからローカルまで貧困・人権・環境・経済格差などの社会的課題に問題意識を持ち、その解決への貢献に「働きがい」を感じる若者は多い。その実現を企業のCSRに期待するものの、実際の現場は彼ら/彼女らが描くものとは違う。「志」を胸にとどめて現実を受け入れるか、NGOに「働きがい」を求めるか。そこに岐路がある。
現在の日本においては、このように社員とCSRに不協和音が生じ、企業の社会的課題への取り組みに限界を感じることがある。
こうした閉塞感を企業の組織原理から分析し、「レスポンシビリティ(responsibility)」の考えによる経営実践を通じてその打破を論じるのが本書である。
周知の通り、CSRの訳語は「企業の社会的責任」である。著者は、「責任」に着目、「アカウンタビリティ(accountability)」と「レスポンシビリティ」の側面があるとし、前者は与えられた責務とその実行に、後者は他者に対し自分ができること、すべきことの「応答」を意味すると論じる。
営利目的の企業は、社員に役割や責任範囲を与え、その実行結果に応じ報償や懲罰を与える仕組みを組織の隅々に張り巡らす。これこそがアカウンタビリティの発想に由来し、営利に適う。
それゆえ、事業活動にCSRが溶け込む程に法令遵守と同一視され、企業は社会に迷惑を掛けない、ひいては事業活動のリスクから企業を守る内向きに矮小化する。
社会的課題の多くは企業が責を負わない公共領域にあるのだから、アカウンタビリティの考えに依る限り企業は社会的課題の解決に貢献する膨大な人・モノ・金・情報のリソースを持ちながらも、組織原理的にその解決に本腰を入れて取り組めない。