フランスのマクロン大統領が気候変動対策で苦境に立たされている。フランスの国務院(最高行政裁判所)は11月19日、仏政府に対して、「気候変動枠組み条約『パリ協定』(2015年)の目標を達成できること」を3カ月以内に証明するよう求めた。北部の市が2018年、パリ協定の2030年目標に達するよう追加措置を取るよう政府に訴えたが、拒否されたため国務院に提訴していた。(在パリ編集委員・羽生のり子)
提訴していたのはドーバー海峡に面したグランド・サント市と、当時市長だったダミアン・カレームEU議員(緑の党)だ。海辺の自治体のため、地球温暖化による海面上昇で水没する危険性が高い。
フランスはEU(欧州連合)28カ国共通の目標として「2030年にマイナス40%(1990年比)」の目標を掲げていたが、ここ数年の温室効果ガス排出量は、その年の目標排出限度を上回っていた。にもかかわらす、「2020年4月21日の法律で、目標に達するための努力を2020年以降、特に2023年以降に先送りした」と国務院は報告している。
そのため、より厳しい措置を望むグランド・サントの要請を拒否して2030年にパリ協定の目標に達することができるかは疑問だ。政府の証明が不十分なら、国務院はグランド・サントの訴えを正当とし、政府の拒否を無効にするという。
この裁判はグリーンピース・フランス、オックスファム・フランス、ニコラ・ユロ元環境相が理事長を務める「自然と人間のための財団」、環境正義を訴える団体「我々皆の問題」が支援している。グリーンピースは「歴史的な判断」とコメントし、オックスファムのセシル・デュフロ事務総長は「2030年に到達すべきことは先送りできない。今しなければ」と政府の危機意識の薄さを指摘した。
これら4団体はフランス政府の地球温暖化対策が不十分であるとして、2018年末に200万筆の署名を携えて政府に厳しい措置を要求したが、回答に不満で2019年3月、政府をパリ行政裁判所に提訴した。グラン・サントの訴えが通れば、2021年夏以降に始まる4団体の裁判に有利に働く可能性が高い。
なお、フォンデアライエンEU委員長が9月に、EUの目標として「2030年にマイナス55%(1990年比)」の目標を掲げたが、この裁判では触れられなかった。