英・グラスゴーで開かれている第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が大詰めを迎えた。12日の最終日に向けて、COP26の最大の焦点である「パリ協定 第6条」の交渉が続いている。第6条は、削減した温室効果ガスの国際取引に関するルールを定めたもので、各国の思惑が異なることからCOP24(2018年)、COP25(2019年)でも合意に至らなかった。論点はどこにあるのか、COP26に現地入りしている専門家に話を聞いた(第12回オルタナハウスレポート)。(オルタナS編集長=池田 真隆)
オルタナでは、有料会員(SBL)向けに毎月定例セミナー「オルタナハウス」を開いている。旬なサステナビリティトピックについてゲストとともに話し合う。第12回のオルタナハウスを11月10日に開き、ゲストにはCOP26に現地入りしているWWFジャパンの山岸尚之・気候エネルギー・海洋水産室長を招き、COP26の成果について聞いた。
WWFジャパンは国連主催の国際会議の公式オブザーバーだ。セッションに出席して意見を述べる権利は持っていないが、会場で記者会見を開き、各国から集まっている首脳らに論点を訴えている。キーパーソンを見つけては直接、意見を主張する。WWFジャパンにとっては、会場内の通路やカフェエリア、スモーキングスペースも「国際交渉の場」だという。
10日時点でのCOP26の成果について、山岸室長は「50点」と語る。COP26が開幕する前では、世界の平均気温の上昇が2.7度と測定されていたが、各国が目標を上げたことで「1.8度に抑えられる」という試算も出た。
山岸室長は、「まだ1.5度目標には足りていない。さらに取り組みを強化するよう、COP26からメッセージを出せるかがポイント」と話す。
だが、「パリ協定が機能し始めたと感じている」と評価もする。「インドはCOP26に合わせて70年までには排出ゼロを目指す目標を持ってきた。実はこれは、2015年にパリ協定が採択されたときにも出ていた。それがここに来て不十分ながらも、表明したのでパリ協定の効力が各国で効き出したと感じた」。
一方で、「化石賞」を受賞した日本については、「岸田首相のスピーチのなかで、ゼロエミッション火力を強調したが、一般的には石炭火力の延命策ととらえられた。だから化石賞に選ばれた。世界の評価基準は脱石炭にシフトしている」と話した。
■期待は高いが、合意できるかは「微妙な状況」
山岸室長が「6条交渉は今回のCOP26のアジェンダのなかで、最大の目玉の一つ」というようにCOP26の後半戦の最大の焦点は「パリ協定 第6条」だ。
第6条は、国が削減した温室効果ガスの売買に関するルールを取り決めたものだ。削減した量を取引する制度なので、「排出量取引」と名付けられている。
排出量取引は「排出権取引」とも言う。化石燃料の炭素含有量に応じて課す「炭素税」と同じく、カーボンプライシングと呼ばれる政策だ。排出量取引の仕組みはこうだ。
- まず各国家は排出するCO2の量を定める。これを「排出枠」と呼ぶ。
- CO2の削減に成功して、排出枠に余剰分ができた場合、排出枠を超過した国と取引することができる。
- この制度で社会全体のCO2の排出量を抑制していく。
なぜ排出量取引が生まれたのか。それは自国だけではCO2の排出を抑制できない国のために、国家間で協力して世界全体でCO2の排出量を削減していくためである。
パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、「2度より充分低く抑え、1.5度に抑える努力を追求すること」を約束した国が採択した国際アジェンダである。この目標を達成するためには排出量取引がカギとなる。この制度のルールについて定めたのが「第6条」である。
■2カ国間での削減量、NDCに計上へ