「中国当局から在日ウイグル人のスパイ活動を要求された」

■レテプ・アフメット日本ウイグル協会副会長インタビュー■

中国の新疆ウイグル自治区で生まれ育った日本ウイグル協会(東京・文京)副会長のレテプ・アフメットさん(43)は、2002年に東大大学院に留学した。その後も日本で就職して日本国籍を取得した。ウイグルの家族とは2017年夏以降、連絡が取れていないという。中国当局から「スパイになれ」と要求があったことも明らかにした。新疆ウイグル問題は「事実関係がよく分からない」と考える人も多いが、同氏の言葉は「人権の重み」と「真実性」を私たちに突き付ける。(オルタナ副編集長=吉田広子)

レテプ・アフメット日本ウイグル協会副会長

人質に取られた家族、4年連絡取れず

――アフメットさんは、留学を機に来日され、日本で暮らしています。2017年ころからウイグルにいるご家族と連絡が取れないそうですね。

2002年に東京大学大学院理学系研究科に入学しました。修士号を取得した後、日本でIT企業に就職しました。

当時は、ウイグルにいる家族と電話をしたり、チャットアプリを使ったり、いつでも連絡が取れる状況でした。

家族と連絡が取れなくなったのは2017年6月ころです。政治的な活動を行うリーダーだけではなく、普通の人まで強制収容所に送られているという話は聞いていたので、とても心配で、電話やアプリで連絡を取ろうとしても何も反応がありません。

2018年2月に一度、警察から電話があり、母と電話することができました。話を聞くと、「父と弟、親類は2017年7月から勉強に行っていて、家にいません」と。中国では「再教育」施設と呼ばれていますが、強制収容所に送られたことを察しました。それが母との最後の会話です。

家族や親類が、収容所を出たのか、まだいるのか。生きているのか、死んでいるのか。一切の確認が取れていない状況です。

――その後、2018年3月、ウイグルの警察から電話が掛かってきたそうですね。

収容所にいる父からのビデオメッセージが送られてきました。イスラム教徒の習わしであるひげをそり、伝統の帽子もかぶっていない、目に力がない、変わり果てた父の姿でした。とてもショックを受けました。

父はこう語りました。「私は施設で勉強しています。体も健康です。あなたも中国の利益を最優先に考え、協力すれば、私たちも安全に暮らせます」。

父の意見ではなく、言わされているのは分かっていました。父の映像の後ろには監視カメラが見えました。そして、中国当局からは、日本にいるウイグル人の情報を提供すれば、家族を解放すると。つまり、スパイ活動を命じられたのです。

家族が人質に取られて、スパイ活動を要求される――。こんな悪夢が自分の身に起こるとは想像しませんでした。

この動画を受け取り、一年間はだれにも打ち明けることができませんでした。毎日、動画を見ては涙があふれてきました。

家族への迫害が心配です。家族を救いたい、でも、人間としての良心がそれを許さない。人間として越えてはいけない一線だと思いました。

これを最後に、ウイグルにいる誰とも連絡を取ることができなくなりました。毎日電話をかけても、電話は鳴りますが、だれも出ません。怖くて出られないのか、手元にないのか分かりません。

2019年7月に、ウイグル旅行に行くという日本人に実家を見てきてほしいと頼みました。それが唯一の手段でした。現地に行ったところ、大都市間は移動できても、私が住む小さな町の入り口では、厳重な検問があり、近付こうとすると警察に尾行され、結局、家の確認はできませんでした。

こうした状況に置かれているのは、私だけではありません。世界中にいます。

現代ではITで世界中つながっているのに、どこかで生きているのか、死んでいるのか分からない。消息が分からないのです。

強制収容所の実態を知り、実名公表を決意

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ESG#ビジネスと人権

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