EU(欧州連合)は7月、「国境炭素税」(国境炭素調整措置)の概要を発表した。2050年カーボンニュートラル(炭素中立)を実現するための新ルールで、2026年の導入により世界標準化を目指す。まずは温室効果ガス排出量の多い鉄鋼やセメントなど5品目を対象にする。日本企業への影響はあるのか。(オルタナ編集部)

「化石燃料を使った経済はすでに限界に来た」――。フォン・デア・ライエン欧州委員長は7月14日、国境炭素調整措置(カーボン・ボーダー・アジャストメント・メカニズム、国境炭素税)概要発表の会見でこう言い切った。

国境炭素税の枠組みでは、2023年からEU域内の輸入業者に輸入製品のCO2排出量を報告することを義務づけ、26年から課税を始める計画だ。

国境炭素税によって、EUは年間100億ユーロ(約1兆2900億円)の税収を見込む。新型コロナの打撃を受けた経済の復興策(グリーン・リカバリー)として、国境炭素税を財源に7500億ユーロ(約97兆円)の共同債券を発行する計画だ。

「炭素税を多く負担しているEU企業が不利」

国境炭素税が生まれた経緯には、EU域内の国の気候変動対策の水準が域外の国と比べて高いことがある。炭素税の導入状況を比べると、スウェーデンはCO2排出1トン当たり1万4400円、フィンランドは9625円、フランスは5575円、英国は2538円だ。一方、日本は289円とその差は大きい。米国や中国などは導入していない。

こうした状況では、炭素税を多く負担しているEU域内の企業にとって、域外の企業と競う際に不公平さが生まれる。そこで考案されたのが、国境炭素税だ。

具体的な措置としては 
(1)EU域外からの輸入業者に対して、CO2排出量に応じた負担を求める
(2)EU域内からの輸出品に対し負担分の還付を行うーーなどが軸になる。

欧州委員会が現時点で課税対象としているのは、CO2排出量の多い「鉄鋼」「セメント」「肥料」「アルミニウム」「電力」の5品目だ。2023~2025年までは、輸入業者は排出量を報告するだけで、この間は国境炭素税の負担はない。

負担を義務付けるのは2026年以降で、EU域内の輸入業者は域外から製品を輸入する際に、製品のCO2排出量に応じた炭素価格を支払うことになる。費用は毎週のEU-ETS(EU域内排出量取引制度=2005年導入)価格に連動する。

CO₂排出の範囲は、対象製品の製造時の「直接」排出量(スコープ1)に限るか、「間接」排出(スコープ2/3)まで拡大するかどうかは、移行期間の終了までに決める。

課税対象が5品目から増える可能性も

「EUは、気候変動対策を世界的に強化する戦略として国境炭素税を位置付けている」(高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授)。

国境炭素税は、企業の脱炭素化を世界規模で促進することに加えて、カーボンリーケージ(炭素漏出)を防ぐ役割もある。

カーボンリーケージとは、気候変動対策が遅れている地域から、安価な製品が輸入され、EU域内企業の競争力が弱まることと、気候変動対策が遅れている国に生産拠点が集中し、結果的にCO2排出量が増えることを意味する。

日米を含め域外の各国では、自国の製品が不利に扱われる可能性への懸念も広がっているが、欧州委員会は、国境炭素調整メカニズムは、WTO(世界貿易機関)のルールに準拠して設計すると主張している。

では、日本企業にはどのような影響があるのか。欧州委員会が現時点で課税対象としている鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、電力の5品目だが、これらの日本製品(電力を除く)がEUの輸入に占める割合は1%以下で、「日本企業への影響は限定的」という見方もある。

しかし、欧州委員会はこの5品目に加えて、業種や製品の追加を想定していることから、今後、自動車や電気機器などの業種に影響が出る可能性もある。

経済産業省産業技術環境局地球環境対策室の齊藤瑞希氏は「いま対象とされている鉄鋼、アルミなどの製品について、EUの輸入に占める日本のシェアはいずれも1%以下だが、市場が変わることによる間接的な影響も含めて注視している。カーボンリーケージを防ぐ手法がいくつかあるなかで、公平で実効性のある経済成長を阻害しないあり方を考えていく必要がある」と話す。

企業が、国境炭素税による負の影響を受けないためには、国際交渉がカギを握る。欧州委員会は、二重課税を防ぐために、輸出国で炭素税が課されている場合は、その金額を減免するとしている。