連載:気候変動による被害を防ぐ(1)

■現在・近い将来の影響への対処・レジリエントな社会の構築も
昨年から日本の気候変動対策、特に緩和策(温室効果ガス削減策)に非常に注目が集まっています。温室効果ガス削減に力を入れることと併せて、現在・近い将来の悪影響にも目を向けたいと思います。というのも、2050年にネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成を目指す国が多いですが、それまで日本も含めて悪影響がゼロではないからです。

2050年のネットゼロを達成を目指す国が多いが
その前に甚大な被害が生じる可能性がある

遠い国の極端なケースで恐縮ですが、例えば、世界食糧計画(WFP)は、マダガスカルで発生している過去40年で最も酷いと言われる長期干ばつによって、110万人以上が食料不足に直面し、特に南部の1万4,000人は最も深刻なレベルの食料危機に陥っていると報告しています。WFP事務局長は、この干ばつの背景には気候変動もあると指摘しています。

そういった地域で生活する人々は、そもそも適応のためのキャパシティや技術等へのアクセスが不足している場合が多く、結果的に極度の貧困や移住に陥る傾向があります。2018年の世界銀行報告書では、世界で早急に対策を取らなければ、ラテンアメリカ・サブサハラアフリカ・東南アジア地域において、農作物の生産性低下・水不足・海面上昇等を含む気候変動の悪影響によって、2050年までに計1億4,300万人が別地域へ移住を余儀なくされると試算しています。

こうした状況から、緩和策とともに気候変動による悪影響を軽減・被害を防ぐ適応策をとり、持続可能でレジリエントな社会を構築していくことも重要です。緩和策を軽視する訳ではなく、本当は適応策をとる必要がない方がよいのでしょうが、残念ながらとらざるをえない状況であり、日本も適応計画を策定し、防災分野との連携も進んでいます。

世界で高まる適応ファイナンスへの期待
国連環境計画(UNEP)の「適応ギャップ報告書2020」において、2030年までに途上国の適応に必要な費用は年間1,400億ドルから3,000億ドルになり、2050年には5,000億ドルに達するとの試算が出されています。こんなにお金が掛かって大変と捉えるか、それだけニーズがあり、潜在的な適応ビジネスの市場規模があると捉えるかは人それぞれですが、今後、世界で適応のための技術・製品・サービス等へのニーズは確実に増え、適応策に流れる資金も増えるでしょう。日本も先日のG7サミットにおいて、2021~25年の間に6.5兆円相当の支援を実施し、特に適応分野の支援を強化していく考えを表明しました。また、1月の気候適応サミットでも海外首脳から適応ファイナンスを重視する発言が相次ぎました。例えば、オランダ首相は、自国の気候変動対策にかかる公的資金を緩和と適応で50%ずつにすると表明し、ドイツ首相は、脆弱なコミュニティのため、適応に総額2億7,000万ユーロの追加予算を約束すると述べました。(ここでは分かりやすく額を記載しましたが、本当に必要なところに効果的に届いているかも重要です。)

途上国の適応に必要な費用は増えており、日本も適応分野の支援を強化する考えだ

公的資金だけでなく、民間資金導入や民間事業者の適応策を後押しするような支援も増えると思われ、今年3月には、環境省が「金融機関向け適応ファイナンスのための手引き」をとりまとめて公表しています。本手引きでは、日本国内の影響への懸念とともに、世界各地の気候変動影響がサプライチェーンを通じて国内産業や経済に波及する可能性も指摘されています。また、これらの気候変動によるリスクに対する対応とともに、民間が適応策に取り組む意義として、ビジネス機会獲得や地域・社会の課題解決も挙げられています。

なお、適応策だけでなく、今後は国内の脱炭素社会構築とともに、日本も含めた世界のあらゆる温室効果ガス削減に貢献することも求められるでしょう。気候変動対策は、緩和策・適応策問わず、新たな技術開発や市場獲得等、新興国企業も巻き込んだ国際競争の側面もあります。一方で、パリ協定の下で公平性・実効性を担保することも非常に重要であり、そのために今後の国際協調のあり方を考えることも必要です。次回以降、世界の動向を見つつ、被害を防ぐために何をすべきか、緩和策と適応策の両面から考えていきたいと思います。