いま日本では500社以上が「統合報告書」を発行している。非財務情報の開示基準は、国際的な統一基準がないため、サステナビリティ経営に取り組む各社は、苦心しながら報告書のスタイルを考え、改善している。最近のトレンドも踏まえ、優秀な統合報告書を中心に紹介する。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

統合報告において、参考にすべきガイドラインは「経済産業省 価値協創ガイダンス」「IIRCフレームワーク」「ISO26000」「GRIスタンダード」「TCFD」「SASBスタンダード」などがある。

最近の統合報告書の世界トレンドを考慮すると、非財務情報の開示で重要なのは次の10視点だ。

1) 企業のパーパス(存在意義)
パーパスは、社会における企業の存在意義を明確に宣言するものであり、利益追求だけでなく、社会課題にフォーカスした活動により、社会、投資家に限らず従業員を含めたステークホルダーから「信頼」「共感」を得られる。パーパスを明確に企業にした企業ほど収益性が高いことは、米国や欧州の経営者の共通認識になった。
※参考:東京海上HD 統合レポート2021 p10-13「パーパスストーリー」
P010-011_tokyokaijo (tokiomarinehd.com)

2) トップメッセージ(CEOメッセージ)
社長が自らの言葉で事業とサステナビリティの両面について、業績報告、ガバナンス、戦略とKPI、リスクと機会等をコミットする。社長の本気度が示される。
※参考:花王統合レポート2021 p7-12「TOP MESSAGE」
花王統合レポート2021 見開き版全ページ (kao.com)

3) 中期経営戦略と価値創造ストーリー
サステナビリティの分野にビジネスチャンスを見出し、戦略に組み込んでいる企業が求められる今、各社は企業の稼ぐ力が持続的に高まる中長期的な成長戦略と、成長を阻むリスクの認識と適切なマネジメント力を示している。

価値創造ストーリーは、パーパス、取り巻く環境・トレンド、インプット(6資本)、事業活動・戦略、アウトプット、アウトカムなどを示し、価値創造ストーリー図は、各社でデザイン性を含めて工夫が見られる。
※参考:日立製作所 統合報告書2020 p18-19 「価値創造プロセス」
日立 統合報告書 2020(2020年3月期) (hitachi.co.jp)

4) マテリアリティ
企業の価値創造の全体像を捉え、最も価値創造に重大な影響を及ぼす重要事項を特定する。

マテリアリティの特定に至った分析の経緯、取り組むことを決定した課題、リスク・機会・分析を記載することが透明性の観点から重要である。

リスクに対して、「会社にとってのインパクト」「リスクに対する具体的アクション」「どのKPIに影響するか」を明らかにすることが求められる。
※参考:日本ペイントHD 統合報告書2020 p15-16「マテリアリティ」IntegratedReport_2020_010.pdf (nipponpaint-holdings.com)

5) 重要事項の定量化(KPI)
重要性の高い事項を特定し、パフォーマンスの改善が特に必要な部分について定量化するため、KPI(キー・パフォーマンス・インディケーター=重要業績評価指標)を設定する。

財務指標においては、損益、貸借の基本数値、キャッシュフロー、株主配当とともに、 事業の稼ぐ力を示す「ROIC(投資資本利益率)」やM&Aや会計処理変更等を除いた自力の売上高成長率を示す「オーガニック成長率」を用いる企業もある。
※参考:KIRIN CSV REPORT 2021 p22「非財務KPI-CSVコミットメント
KIRIN CSV REPORT2021 (kirinholdings.com)