「ヤングケアラー」、介護する子どもの権利を考える

全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会、東京・江東)など3団体はこのほど、日本テレビ「人生が変わる1分間の深イイ話」に対して、家族の介護をする子ども「ヤングケアラー」に関する放送のあり方について意見書を提出した。6月28日に放送された同番組では、ダウン症の長男がいる元横浜DeNAベイスターズ監督のアレックス・ラミレスさん家族に密着していた。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「ヤングケアラー」とは、障害や病気のある親や祖父母、きょうだいなどの介護や世話をしている18歳未満の子どもを指す。

今回意見書を提出したのは、全国きょうだいの会、障害者を兄弟にもつ20―30代のグループ「きょうだいの会ファーストペンギン」、NPO法人インフォメーションギャップバスター(横浜市)の3団体だ。

全国きょうだいの会副会長で弁護士の藤木和子さんは、弟がろう者で、自身もヤングケアラーとして育ってきた。

意見書提出の経緯について、藤木さんは「ラミレスご夫妻には親としてのお考えやお気持ちがあり、お子さんたちを含めたご家族を傷つける意図は全くありません。しかし、障がいのある人の『きょうだい』は、子どものころから我慢をしなければならない事が多かったり、いじめられることもあったりする一方で、ヤングケアラーが抱える問題が表面化しにくい現状があります。放送局は大きな影響力を持つため、そうした側面にも目を向けてほしいと考え、番組宛に意見書を提出しました」と話す。

この数年で、ヤングケアラーの問題は徐々に認知され始め、厚労省と文科省は初めて全国規模の実態調査を実施し、2021年3月に報告書を発表。「世話をしている家族がいる」という中学生・高校生のうち、「自分の時間が取れない」と答えた生徒が20%、「宿題や勉強の時間が取れない」が16%に上った。一方で、約6割が「相談した経験がない」ことも明らかになった。

きょうだいは「自分が主役」と感じにくい

6月28日の「深イイ話」では、ラミレス家の次男がダウン症の長男の身の回りの世話をする様子が放送され、「スーパーボーイ(次男)が今のラミちゃん一家を支えている」と締めくくられた。

藤木さんは、同番組のなかで「次男くんは、(ダウン症の長男くんを支える)使命を持って生まれてきた」「次男くんにしかできないことは長男くんを守ること」というセリフや演出に違和感を持ったという(セリフは番組HPから引用)。

「『君にしかできないこと=守ること』という教えは、その子の人生の選択肢を狭めてしまい、自分が主役に思えなくなってしまうという課題があります。自分の存在意義の根幹にかかわってくる問題です」(藤木さん)

藤木さんは、障害がある姉を持つ友人のエピソードを紹介してくれた。

・お姉ちゃんが書けるように自分の名前がひらがなになった

・小学校でもグループ分けはいつもお姉ちゃんと一緒

・学校でいじめられているお姉ちゃんを守れない自分が怒られる

・他にやりたいことがあったけれど福祉の学校に進学した

藤木さんは「障害や病気のある家族を家族内だけで助け合い、問題解決をすることが『当たり前』『美談』とする描写を避け、外部の支援機関を紹介するなど、家族の負担を減らす方向で番組を構成してほしい。今回の意見書は、ご両親やお子さんたちを傷つけてしまうのではないかと、提出すること自体を悩みましたが、悩みを抱えている『きょうだい』や保護者の方々が多いことを知っていただきたかったのです。多くの方に感動や勇気をくださる『深イイ話』だからこその期待を込めて、私たちも勇気を出しました」と語った。

日本テレビ宛の意見書の要旨は次の通り(一部抜粋)。

現在、厚生労働省・文部科学省等では、社会的課題として「ヤングケアラー」に対する取り組みが始まっています。「障害のある子」も「きょうだい」も、「一人の子ども」としての権利があります。今回のエピソードが、ヤングケアラーについての何らの説明もなく、「全員一致の深イイ話」として放送されることはヤングケアラー支援を妨げる可能性が高いです。

(中略)

障害のある子や親への支援が不足しているため、きょうだいが世話(ケア)をすることを、「ありがとう」「助かる」「えらいね」などの言葉によって暗黙の了解にされてしまったり、時には強制される場合もあります。また、自分が障害のある兄や姉のために生まれたことを知り、ショックを受けるきょうだいがいるのも事実です。センシティブな課題であることをご理解ください。

テレビ放送の影響力は大きいです。障害のある子ときょうだいが、「助けられる」「助ける」関係になるのではなく、それぞれが自分の人生をそれぞれの形で生きていける社会環境・支援が必要です。障害や病気のある家族を家族内だけで助け合い、問題解決をすることが当たり前・美談とする描写を避け、ヤングケアラーや家族の負担を減らす方向で考えていただくようお願いいたします。

全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
きょうだいの会ファーストペンギン
NPO法人インフォメーションギャップバスター

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#障がい

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