連載企画「わがパーパス」では企業や組織のトップに自社のパーパス(存在意義)を執筆して頂いております。今回、紹介するのは中井徳太郎・環境事務次官のパーパスです。

地域循環共生圏で大量生産・消費を見直し、エネルギーや食料の自立・分散型の社会を目指す

病気の地球を治す――カーボンニュートラル

気候変動の影響とみられる気象災害が激甚化・頻発化する中、パリ協定の2℃目標、1.5℃努力目標に向けて世界は大きく動き出しています。我が国は、2020年10月、2050年までのカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す方針を打ち出しました。

2021年10月に地球温暖化対策計画を改定し、2030年の削減目標を46%削減と大きく深掘りしました。私は、これまで様々な講演の場などにおいて、気候変動のような地球規模の環境問題を自分ごととしてとらえて対応することを促すためには、どのように訴えるのが効果的だろうかと思案してきました。

気候変動の現状や、地球環境容量の限界を示唆するプラネタリー・バウンダリーの考え方を説明しているうちに、これは地球を人体に例えて説明するのが分かりやすいということに気付きました。

人の体は37兆個の細胞によって構成され、毛細血管で酸素と栄養を巡らし、組織を形成し、器官をつくり、神経のネットワークで全体性を保つシステムです。例えば、お酒を飲むと、肝臓に一定の負担はかかりますが、アルコールを分解して代謝し、回復するというレジリエンスを持っています。

しかし、毎日お酒を大量に飲み続け肝臓に負担がかかり過ぎると、肝機能に異常をきたし、病に至る。これに対して、健康診断ではガンマGTP値などで肝機能をモニターしています。

地球では、大量の化石燃料を燃やすとともに、大量生産・大量消費・大量廃棄により高度な都市文明を築いてきましたが、その結果、人類の生存基盤である地球環境そのものが損なわれつつあります。

大気中の二酸化炭素濃度400ppmという数値は、いわばガンマGTPが異常に上がった状態と言えます。気候変動がもたらす様々な気象災害は、肝臓の状態が悪化し、症状が発現し、深刻化していると譬えることができるでしょう。

こうした慢性疾患に対しては、食事療法や運動の習慣化などによる根本的な体質改善が必要です。地球に置き換えてみると、化石燃料への依存から脱却し、経済社会の仕組みを転換していくことが求められます。

環境省が提唱している日本版SDGs・地域循環共生圏は、このように地域や地球を生命系のシステムと捉え、森里川海・自然の恵みである再生可能エネルギー、食、観光資源など地域の強みをデジタルなどのテクノロジーの活用で最大限活かし、病んでいる地域・地球を健康体に戻し、日本、そして世界を元気にするという考え方です。

今後は、地域循環共生圏の考え方に基づき、2050年カーボンニュートラルを目指し、地域脱炭素ロードマップに従い、100カ所以上の脱炭素先行地域を5年以内に実現し、脱炭素ドミノの面的展開をしていきます。

脱炭素化に向けて、産業構造や経済社会の変革をもたらし、経済成長につながることを政策的に誘導することを目指すツールであるカーボンプライシングについて、中央環境審議会カーボンプライシング小委員会での議論を踏まえ、引き続き、成長に資するカーボンプライシングの検討を進めていきます。

もちろん、環境課題が水俣病を始めとする公害問題から気候危機へと課題が大きく変化する中でも、その原点を忘れることなく取り組みを前に進めていきます。