【連載】政策起業家とは何者か(4)

日本で社会起業家(social entrepreneurs)という概念が浸透してきました。私が大学生だった2008年頃には大学の授業でも新しい潮流として講義がありました。2010年には日本で初めてソーシャルビジネスを専門で扱う民間のビジネススクールとして、「社会起業大学」がスタートし、実は私は1期生として入学して勉強させていただきました。今回は「社会起業家」と「政策起業家」の違いを書きたいと思います。(三井 俊介・NPO法人SET理事長)

社会起業家とは、一般的には社会課題をビジネスの手法によって解決する人々と認識されていると思いますが、社会起業教育の父として認識されているグレゴリー・ディーンズによる定義では、「人やその他の資源を新たなかたちで結びつけることで、問題解決への社会対処能力を強化する」とされています。

社会起業家の特徴として、「公共の価値を創造し、新しい機会を常に探求し、絶え間なくイノベーションを起こし、状況に適応し、大胆に行動をし、あらゆる資源を最大限に活用する、強い責任感を持つ人物」と紹介しています。

そして六つの資質として、
「間違っていると思ったらすぐに軌道を修正する」
「仲間と手柄を分かち合う」
「枠から飛び出すことをいとわない」
「分野の壁を越える」
「地味な努力を続ける」
「強い倫理観に支えられている」ーーをあげました。

彼らが行うビジネスは、ソーシャルビジネスと呼ばれます。世界的に見れば、貧困地域の女性たちに少額融資の仕組みを導入したグラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス氏などが有名です。

日本だと、カンボジアの売春問題に取り組む認定NPO法人かものはしプロジェクトの村田早耶香氏やバングラディシュから世界に通用するブランドを作り販売しているマザーハウスの山口絵理子氏などが有名です。

社会起業家と政策起業家で共通する部分も多くあります。例えば公共の価値を創出することが目的であることやビジョンを持ち、粘り強く活動し、周囲を巻き込んでいくことなどです。

違いの部分に焦点を当てると、社会起業家は社会課題解決の主な手段として「ビジネス手法」を重んじます。一方で政策起業家の場合は最終的には「政策変更」を目標とするため、ビジネス手法にこだわるわけではありません。

ビジネスセクターと公的セクターの間で生まれる社会課題について、創意工夫をしてビジネスの手法で取り組むのが社会起業家ですが、いくら工夫を凝らしたとしても、全ての社会課題をソーシャルビジネスで解決できるわけではありません。政策起業家は更に取り残されている社会課題の分野で活躍している可能性があります。

そして私自身は以下は本当に「社会起業」の大きな功罪だと思っています。ソーシャルビジネスが浸透したことで、多くの社会課題が解決に向かっている一方で、日本においては「全てをビジネス化する必要がある」という論理が強くなりました。

被災地で活動をしていると、全てをビジネス化することで失うもの、持続可能に逆にならないものがありますが、それがなかなか理解されなかったというのがあります。

「社会起業家の存在は、ソーシャルイノベーションの象徴だが、この10年で持ち上がった課題は、社会起業家単独の事業のスケールとスピードには限界がある」としています。

これらのことから社会起業家がスケールの限界を感じて政策起業家に変わる場合もありえると考察されます。政策起業家の五つの戦略のうち、「アドボカシー連合との協働」「模範を示してリードする」「変革プロセスのスケールアップ」などは政策起業家が特に活用するものであり、多くの社会起業家は活用しないことが予想されます。

なぜ社会起業だけでは社会問題の全てを解決することができず、政策起業が必要なのかについては、次回もう少し詳しく書きたいと思います。

参考:
ボーステイン, デービット(2007)『世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力』ダイヤモンド社.
ボーステイン,デービット(2012)『社会起業家になりたいと思ったら読む本―未来に何ができるのか、今なぜ必要なのか』ダイヤモンド社.