オルタナ・テシスとは
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私たちのご先祖様が知ったら、「なんとまぁ、情けない」と嘆かれるであろうか。いま私たちが取り組んでいる「持続可能な社会へ」というスローガンのことである。文明の正邪両面への目配りを怠り、自らを万物の霊長などと称した高慢な意識により、「人類の危機」はすぐそこに迫っている。(筒井隆司)

私たち一人ひとりが、未来へどのようなバトンをつなぐかが問われている

■改めてSDGsの意義を問う

私たち人間が絶滅しても、美しい地球は存続し、変化する環境の中で適合できる生き物たちは共存を続けてゆくだろう。

人類は科学技術により、過去には思いもよらなかったインパクトを手中に収めている。

私たちは、少なくとも100年先を考えて、暮らし方や、科学技術との関係を考える必要がある。そして、私たちが地球上で生かされてきた命のひとつに過ぎないという真実を、謙虚に認めなければならない。 

私たちは今までに多くの過ちを犯してきたが、それに気づき、方向を修正する智慧と勇気を授かった。これは、極めて幸運な資質といえる。しかしその資質は生かしてこそ意味があり、反省や改善を指向しなければ、不可逆的な不幸の連鎖を生むリスクを孕んでいる。

エネルギー、食料や市場に至るまで、日本の海外依存度は突出している。国際情勢が常に変化し、そのインパクトが避けられない以上、日本は国際社会の安定と、継続的な発展に貢献し、これにシンクロナイズすることで存続の道を模索できる。

日本が重要なサステナブル・パートナーになることが、日本の持続的な成長基盤になるのである。創業100年を超える長寿企業の多くが日本にあるのは、変化の中で「守るべきと変えるべき」を見つめ、正しい判断を下してきた証左ともいえよう。

日本と親交することで、サステナビリティの実践躬行を体得し、未来志向の仲間を増やせるとなれば、活力あふれる世界のリーダーたちは、私たちと挑戦機会を分かち合うことができるだろう。

私たちは個々の「生存可能性」ではなく、国家や民族の「存続可能性」でもなく、「持続可能性」という言葉に、どんな意味を込めるべきだろうか。

ただ生き長らえるのではなく、何を「持ち・続ける」のか。そこには人類が、営々と学び続け、築いてきた価値観があることを忘れてはならない。それは「法の支配」であり、「基本的人権の尊重」でもある。

「秩序ある開発と分配」や「学問の自由と独立」、そして「選択と表現の自由」、「自然環境の保全」、「倫理に則った科学」など、私達は多くの価値観を生み出し、継承してきた。これらの選択肢を未来世代に残し、彼らが取捨選択して継承できるようにすることが、私たちの責任あるバトン・パスではないだろうか。

希望的楽観論に反し、サステナビリティの対極とも言うべき「侵略戦争」が、現実に起きた。覇権主義を妄信する老指導者が、親戚縁者や友人たちを引き裂いている。若者たちの未来を根こそぎ奪い、戦死か殺戮かの選択を迫っている。

筆者が20世紀末に東欧ビジネスを統括し、家族とモスクワで過ごした日々は、忘れ得ぬ出会いと思い出に満ちていた。

ロシア通貨危機は金融システムを破綻させ、筆者は現地法人のBCP執行に不眠不休の日々を過ごした。そんな中、ウクライナの友人達と励まし合い、ベラルーシやカザフスタンなど旧ソ連邦の人々との交流に勇気づけられた。多様な文化や民族性、芸術が地域の魅力を際立たせていた。

対立軸の両側に引き裂かれた友人たちは今、何を思い、どのような着地点を目指しているのだろうか。

ビジネスの世界を離れ、環境保護や社会課題の解決に従事していると、地政学的な理由で設けられた国境は障害に思えることが多い。国益という言葉が先行し、その基盤を成す大きな地球環境や、国境を越えた人類の共益の重要性が看過されかねない。

幸運にも多くの歳月を駐在員として過ごした私は、当初こそ言葉や文化、考え方の違いに戸惑ったものの、新たに国境を越えるにつれ、人間が本質的に持つ価値観の輝きと重さを、ひしひしと感じるようになっていた。

人として求め、他人にも与えなければならないもの。健康、思想の自由、勤労への報酬、暴力のない暮らし、これらは占有も剥奪も許されない基本的な人類共通の権利であり、護るには相応の使命も担わなければならない。

私たちはいま、何を守り、次世代に引き継ぐべきかを明確にしつつある。世界規模で想像を越えた大きなエネルギーのうねりを感じるのは私だけではないだろう。世界は遂に大きな変容に向けて動き出した。

私たちは歴史の傍観者に甘んじてはならない。どんな社会を理想とするかを自らの頭で考え、何を「持続」すべきか定義し、変容に参加すべき局面に立っているのである。

人生100年が自分にも適用されるのかは神のみぞ知る、である。しかし前世紀よりも寿命が幾らか延びたと仮定するなら、これを未来のために使うことは、人生の至福に出会えたと言えるはずである。

筒井隆司(つついりゅうじ) 

ソニーの海外所業本部に約30年在籍し、その間5カ国、通算約22年を海外駐在員として過ごす。世界の人々や文化の多様性、各国の自然の豊かさに心を打たれ、政策渉外部門を最後に、国際環境NGO・WWFジャパンに転職。アジア太平洋地域におけるグローバル企業連携や、WWF国際ネットワークの運営に従事。2020年秋からは企業のサステナブル経営を支援する一般社団法人日本ノハム協会に勤務。