なぜ自動車業界で不祥事が後を絶たないのか

記事のポイント
①日野自動車によるエンジン性能試験を巡る不正が2003年から行われていることが明らかになった
②主力の小型トラックの全てのエンジンにおいて不正が行われていたことも判明
③背景には、過剰検査や「慣習」化、数値目標達成へのプレッシャーがあるのではないか

日野自動車によるエンジン性能試験を巡る不正は、国土交通省が3月に形式指定を取り消す厳しい行政処分を行うなど厳しい処分が行われたが、8月に入り、不正行為が少なくとも2003年から行われ、主力の小型トラックの全てのエンジンにおいて不正が行われていたことが明らかになった。コロナ禍やウクライナ危機などで、世間の注目はさほど集まっていないが、日本のものづくりの根幹を揺るがす自動車業界の問題の根深さが露わになったと言える。(神戸国際大学経済学部教授=中村智彦)

不正行為を謝罪した日野自動車の小木曽聡社長(左)と下義生会長(2022年3月)

自動車業界ではこの5年ほどで繰り返しデータの改ざんや検査手続きの不正が明らかになってきた。2015年には、フォルクスワーゲンなど国内外の自動車メーカーの燃費データ改ざんが大きな問題になり、2016年の三菱自動車の燃費試験の改ざん問題も、まだ多くの人の記憶に新しいところだろう。しかし、その後も毎年のように自動車メーカーの不正問題が明らかになってきた。

これまで最大手であるトヨタだけは、こうした問題に直面しなかった。ところが2021年になって、トヨタおよびレクサス販売店で不正車検が行われていたことが発覚。トヨタの内部調査で、トヨタ系販売会社の15社16店舗で不正車検が長期間にわたって行われていることが判り、2022年2月に入って愛知県警は関係者10名を書類送検する事態となった。

販売店の不正問題に加え、3月に発覚した日野自動車の問題はトヨタブランドを揺さぶる出来事となっている。日野自動車は、2001年にトヨタ自動車が第三者割当増資を引き受ける形で、50.14%の株式を所有するトヨタ自動車の子会社となっているからだ。

8月2日になって、日野自動車は社内の特別調査委員会によって「2003年から約20年近く不正を行っていた」という調査結果を報告した。

ところが、3日から行われた国土交通省による立入検査で、新たに主力である小型トラックに使用していた小型エンジンでも不正が行われていたと、22日になって日野自動車が緊急記者会見で明らかにした。

自動車業界の不祥事年表。新聞報道などから筆者作成 

自動車メーカーの不正問題は、表のように毎年、明らかになっている。さらに、深刻なのは、こうした不正問題が自動車メーカーに止まらないことだ。これまでに神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レと日本を代表する製造業企業で不正が相次いで発覚している。

2016年に三菱自動車の燃費不正問題が発覚した後、今度は三菱電機で相次いで品質不正や労務問題が発覚した。そして、2021年に入って、鉄道車両向け空調装置の検査データを30年以上、偽装して顧客に報告していた疑いが出てきた。

この鉄道車両向け空調の長崎製作所、配電盤の受配電システム製作所(香川県)、電気制御機器や産業用ロボットの名古屋製作所、可児工場、新城工場などでも不正が発覚し、品質管理に関する国際規格「ISO9001」の認証が一時停止や取り消しとなっている。

2021年12月に開いた会見で、こうした品質不正は、同社の5つの製作所で29件に及ぶと発表したが、継続調査の結果2022年4月には、さらに1つの製作所でも不正が発覚したと発表している。

こうした日本メーカーでの相次ぐ不正発覚は、メイドインジャパンの信頼性やブランド力を傷つけている。しかし、数十年近く隠蔽されてきた不正が、なぜ今、こうした不正が明らかになっているのだろうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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