積水ハウスのガバナンス改革、役員は4階層に

■豊田治彦・積水ハウス常務執行役員兼ESG経営推進本部長インタビュー■
積水ハウスがESG経営を進めている。環境面では、ソーラーパネルで電力を自給する省エネ住宅の販売比率を91%に高めた。ガバナンス改革では、社外取締役の増員に続いて、執行役員を「委任型」「雇用型」に分け、取締役、業務役員と合わせて4階層とし、責任を明確化した。その狙いを聞いた。(聞き手はオルタナ編集長・森 摂、編集部・山口 勉)

豊田治彦(とよだ・はるひこ)
1989年4月、積水ハウス入社。東京南シャーメゾン支店長、東京北シャーメゾン支店長を経て、2014年2月から秘書部長。2018年4月、執行役員秘書部長。2020年6月、執行役員秘書部長兼ESG経営推進本部副本部長。2021年4月、常務執行役員秘書担当、ESG経営推進本部長兼渉外部長(現職)

豊田治彦・積水ハウス常務執行役員兼ESG経営推進本部長

ゼロ・エネルギー住宅の比率が91%に

――ESGのE(環境)は、まず「脱炭素」が軸になりますね。

2050年に「脱炭素社会」を実現するには、CO2排出源の15.5%を占める家庭部門と、その約2割を占める賃貸の集合住宅における脱炭素化が急務です。

ただ、当社製品だけを脱炭素すれば良いのではなく、サプライチェーン全体で取り組む必要があります。取引先には、将来を見据えた持続可能な企業経営のため、協力し合って全体で減らしましょうと呼び掛けています。

当社は中小規模の取引先も多いのですが、温室効果ガスの把握の方法に慣れていない企業もあります。そこで、当社が持っている温室効果ガスの測定ノウハウを共有していきます。

これまでも何度か実施していますが、2021年秋にもサプライヤーを集めて勉強会を開き、事例を紹介し合います。すると、自分たちの規模でもできることを分かってもらえると思います。サプライヤー全体の知見やノウハウを高めていきたいのです。

――サステナビリティへの取り組みを単なるコストしかみない向きもある中で、なぜ野心的な目標を掲げられるのでしょうか。

理由は二つあります。一つは当社の主力製品であるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス※)が、「脱炭素そのもの」だからです。当社の2020 年度(2021年1月期)の新築戸建てのうち、ZEH 比率は91%に達しました。

※ZEHとは、高い断熱性と省エネ設備の導入などで使うエネルギーを減らし、さらに屋根などに載せたソーラーパネルの発電量で、屋内で使う全てのエネルギー収支ゼロを目指す住宅のこと

これは、第5次中期経営計画(2020―2022 年度)の最終年度までの目標である「ZEH比率90%」を前倒しで達成しました。ZEHの累積戸数も2021 年3 月末時点で60843 戸になりました。

もう一つは、当社のZEHが競合と比べて勝てる要素、差別化できる要素であることが大きいと思います。

当社は大きな窓や大空間など制約の少ない自由設計でのZEHが実現可能です。社員もその意味や脱炭素社会に向けた大義を理解し、長期にわたって続けてきたからこそ前倒しの目標達成ができたと考えます。

一年を通して過ごしやすい住宅でお客様に満足をいただきながらも、当社としても一棟当たりの単価向上による成果もあり、脱炭素と企業活動が両立できることが体感できています。今後はこの強みをさらに進化させていきます。

ESG経営達成のために「3つのテーマ」を設定

――積水ハウスにESG経営推進本部ができて1年あまりですね。

「E」も「S」(社会)も、「G」(ガバナンス)もバランスよく、しかもグループ全体に横串を刺すこと、つまり浸透させることが当本部のミッションです。

そこで3つのテーマを掲げました。第1に「全従業員参画」、次に「先進的な取り組み」。そして「結果として社会評価の向上につなげる」。この3つに力を注いでいます。

当社はこれまでトップダウンによる指示が多い面がありました。それでは現場とのギャップが生じたり、施策が浸透しにくかったりします。そこで、「全従業員参画」で「自分ごと」として全社員にESGを捉えてもらいたいのです。

これにより、多彩なイノベーションが生まれ、コミュニケーションが多くなる企業風土を目指しています。

グループ全従業員と「ESG対話」をしたい

――従業員にはどのように参画してもらいますか。

2020年9月、「事業を通してさまざまなステークホルダーを幸せにするためにはどうしたらいいか」というテーマを掲げて、社内で「ESG対話」という企画をスタートしました。

人の行動パターンには段階があります。まず「認知」があって次に「理解」があります。そして「共感」があり「行動」があって、最後に「習慣」になります。今回のESG対話で、まずはその認知・理解を進めたいのです。

対話では「幸せ」について語り合います。私も入社して30年以上経ちましたが、幸せについて社内で真剣に話したことはありません。

「幸せ」とはすごく曖昧な言葉です。その定義は人によって違います。こういう違った意見や考えを受け入れるのがダイバーシティであり、それが大切であることを社内浸透させたいのです。

最初にESG対話を受けた幹部クラスが、今度は自分が率いる支店や部署で自らが行う。時間は掛かるかもしれませんが、テーマを変えながら、これからも継続していきます。

――2つ目の「先進的な取り組み」は、どのように社内から吸い上げるのですか。

当社独自の仕組みとして「イノベーション誘発表彰制度(SHIP)」があります。それぞれの事業所で取り組み始めたことや、実績を上げていることを含め、新たなイノベーションを募り、表彰します。これには「企業理念の実践」や「社会課題の解決」という指針を掲げ、その実現に向けてイノベーションコンペを行っていきます。

――「ESG」と「SDGs」の違いについては、社内にどう説明していますか。

一般的には、ESG経営が社員に馴染むかというと、なかなかピンと来ない人が多いかもしれません。社員に向けては「SDGs」から入っていく方が分かりやすいでしょう。

実はこのほど「マテリアリティ」(重要課題の特定)を行い、私たちが社会課題として捉えていることは何か、SDGsの何に関連するかというものをサステナビリティレポートにも掲載しました。さらにはeラーニングや研修などを通して社内浸透を進めます。

グローバルビジョン「わが家を世界一幸せな場所にする」

――2020年3月、「わが家を世界一幸せな場所にする」というグローバルビジョンを発表しましたね。

当社は1960年に創業しました。会社として、いま「第3フェーズ」に入ったと考えています。創業当初の30年間は「安全安心」をテーマに掲げ、耐震や防火性能を追求してきました。

1990年からは第2フェーズに入り、今度は「快適性」をテーマに据えました。例えば省エネやユニバーサルデザインなど快適性を追求しました。

次の2020年からの30年で2050年までは、「人生100年時代の幸せ」。つまり「ウェルビーイング※」をテーマにしています。このテーマに沿って「幸せ」を中心において「わが家を世界一幸せな場所に」というメッセージを出しました。

※ウェルビーイングとは、人々が身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念

「わが家」とは何か。従業員にとっての「わが家」は自宅であり、会社ともいえます。お客様にとっては、私たちが提供する家です。もう少し大きな目で見ると国や地域、世界、地球も「わが家」です。さまざまなステークホルダーに幸せになってもらいたいという考え方です。

――「幸福度が高い従業員は生産創造性が3倍、生産性は3割高くなる」という米国の調査結果もあるようですね。

幸福学の第一人者である前野隆司・慶應義塾大学大学院教授のご協力のもと、2020年11月に、グループ全従業員を対象に実施しました。総じて当社は「幸せ度が高い」という結果でした。

調査では「人のために尽くすことに幸せを感じる」傾向も見えました。企業理念が浸透しているということかも知れませんね。

執行役員を「委任型」と「雇用型」に分ける

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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