それでも政府が原発を推進すべきでない3つの理由

記事のポイント


  1. 政府はGX 実行会議で基本方針案を取りまとめた
  2. 原発の新規建設や60年以上の運転延長などを盛り込んだ
  3. 原発を巡っては最終処分や環境汚染の問題がある

政府はGX(グリーントランスフォーメーション) 実行会議で、基本方針案を取りまとめ、1月22日までパブリックコメントを募集している。原発の新規建設や60年以上の運転延長などを盛り込んだ同方針案は、これまでの原子力政策から大きく方向転換し、原発に回帰する内容だ。そもそもなぜ原発を推進すべきでないのだろうか。(オルタナ副編集長=吉田広子、長濱慎)

「GX実現に向けた基本方針(案)」では、「原子力は脱炭素のベースロード電源としての重要な役割を担う」として、廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替えなどを行う方針を盛り込んだ。運転期間も「原則40年、最長60年」という制限を設けたうえで、追加延長を認める。

こうした政府の決定に対して、環境NGOや原発の被災者などからは非難の声が上がっている。国際環境NGOのWWF(世界自然保護基金)ジャパンは、「原子力の積極利用の方向性へ国民的議論なく大きく転換することに断固反対する」として、声明文を発表した。

WWFジャパンの試算では、原子力を段階的に廃止し2030年に向けて再生可能エネルギーを電力需要の50%まで高めることにより、2050年にはすべてのエネルギー需要を再生可能エネルギーで賄うことが可能だと示している。

そもそもなぜ原発を推進すべきでないのか、3つの理由を紹介する。

■処分地選定に強い反対、最終処分の課題は山積み

原発を利用し続ける限り、発生するのが「放射性廃棄物」だ。「核のごみ」とも呼ばれる高レベル放射性廃棄物は、放射能レベルが十分に減衰するまでに万年単位の時間が必要だ。

そこで、将来の人間の管理に委ねずに済むように、ガラス固化体にして、 地下300m以深の安定した地層に埋設するという「地層処分」の計画が進んでいる。だが、その処分地はいまだ決まっていない。これが、原発が「トイレなきマンション」といわれる所以だ。

その処分地選定のプロセスの初期段階が、地質図などを基に適正を調査する「文献調査」だ。

原子力発電環境整備機構(NUMO)は2002年に全国の自治体に対して、文献調査の公募を開始。2007年に初めて高知県東洋町が手を挙げたものの、住民の反対で撤回された。それから13年ぶりの2020年、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が文献調査の受け入れを表明した。

2年にわたる文献調査を経て、第二段階「概要調査」に進んでいくが、鈴木直道知事に対して、概要調査の反対を求める署名活動が行われている。2022年11月には約12万筆の署名が提出されたという。

経産省は2017年に、地域の地下環境などの科学的特性に関する情報を提供する「科学的特性マップ」を公表しているものの、処分地の調査対象として名乗りを上げる自治体はほとんどなく、最終処分の道のりはまだまだ長い。

■オーストラリアやカナダで先住民族の土地を汚染

日本政府は原子力を「準国産エネルギー」と位置付けている。使用済み核燃料を再処理して繰り返し使えるため、化石燃料のように毎回輸入する必要がないという理屈だ。しかしこれはあくまでも「理屈上」でしかない。

そもそも再処理の見通しが立っていない。日本原燃が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は1997年に完成する予定だったのが、技術面のトラブルで25回もの延期を繰り返してきた。最新の計画では2022年度上期の稼働となっているが、いまだに実現していない。

となると、ウランを輸入し続けるしかない。最大の産出国は45%のシェアを占めるカザフスタンで、ナミビア(12%)、カナダ(10%)、オーストラリア(9%)が続く(世界原子力協会・2021年のデータ)。日本は主に、オーストラリアやカナダから輸入してきた。

これら海外の鉱山では、労働者がウラン鉱石を採掘し、不純物を取り除き「イエローケーキ」と呼ばれる粉末状のウランを抽出する。採掘の際には鉱床から放射性のラドンガスが噴出し、露天には放射能を帯びたウラン残土が処理されないまま放置される。

オーストラリアやカナダでは先住民族の土地に鉱山が集中しており、健康被害や強制立ち退き、土壌汚染、水質汚染などを引き起こしている。オーストラリアでは放射能汚染に加えて、鉱山労働者が持ち込んだ酒類によって飲酒の習慣がなかったアボリジニにアルコール中毒が蔓延するといった問題も起きている。

原発を推進することは、これら海外のウラン採掘地で起きている人権侵害に日本が加担し続けることに他ならない。

■原発は「発電コストが低い」のまやかし

2021年9月、経済産業省の諮問機関「発電コスト検証ワーキンググループ」は、各電源の発電コストを発表。2030年に新規建設した場合を想定した試算で、以下の通り原発のコストがはじめて太陽光を上回る結果となった。

2030年の電源別発電コスト試算結果(円/kWh)

・石炭火力:13.6~22.4

・LNG火力:10.7~14.3

・原子力:11.7~

・陸上風力:9.8~17.2

・太陽光(事業用):8.2~11.8

・太陽光(住宅用):8.7~14.9

各発電コストは「政策経費」「社会的費用」(賠償費用など事故リスク対応費用、原発建設地への立地交付金)「燃料費」「運転維持費」「資本費」を合わせたものだ。

しかし『原発のコスト』(岩波書店、2011年)著者である龍谷大学政策学部の大島堅一教授によると、試算には以下3つのコストが含まれていないという。

1.賠償費用に税金を原資とする地方交付金(数千億円)

2.六ヶ所再処理工場など大型施設にかかる再処理費用

3.燃料デブリ取り出し以降に生じる廃炉費用

特に3の廃炉費用については「現時点で推計不能」とされており、これを含めれば天文学的な数字になると大島教授は指摘する。

一方、太陽光や風力は年々コストダウンが進んでいる。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が22年7月に発表したレポートによると、2021年の世界の再エネ発電コストは前年比で太陽光が13%、洋上風力が13%、陸上風力が15%減少したという。

◆「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集(2023年1月22日必着)

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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