ヴルフ大統領辞任についての考察――次期大統領に旧東ドイツ出身のガウク氏が確実

次期大統領は確実とされる牧師で公民運動信望者のヨアヒム・ガウク氏

クリスチアン・ヴルフ連邦大統領(52)(キリスト教民主同盟CDU)が2月17日に辞任した。ドイツでは、政治的な実権は首相が握るが、大統領は実務を担うというより国民の良心を代表する。王族のいないドイツで大統領は、いわば日本の天皇と近いかもしれない。次期大統領は、旧東ドイツ出身のヨアヒム・ガウク氏が確実視されている。

ヴルフ氏は弁護士から政治家となり、2003年より北ドイツのニーダーザクセン州で知事をしていた。知事時代に企業家からの便宜を受けたとの容疑が高まり、今回辞任を余儀なくされた。容疑について報道をしようとした新聞社に、阻止の電話をしたことも批判を浴びた。

しかし、ヴルフ氏は国民に人気があった。辞任前のアンケートでは多くの人が「ヴルフは不正をしたと思う」「正直なことを言っていない」と考えていたにもかかわらず、「親近感を覚える」「大統領に留まるべき」という意見が優勢だった。

ヴルフ氏は2010年6月、アンゲラ・メルケル首相(CDU)の支持により大統領に選出された。社会民主党(SPD)と緑の党は、牧師で公民運動信望者のガウク氏(72)を推薦したが、ヴルフ氏に敗れた。ガウク氏は旧東ドイツの出身で、同じく東出身のメルケル首相と旧知の仲だ。

今回はSPDと緑の党はもちろん、CDUや自由民主党(FDP)もガウク氏を推薦しており、次期大統領間違いなしといわれている。3月中旬に連邦議会(下院)と州代表による「連邦大会議」が開かれ、正式に選出される。

ガウク氏が11歳だった1951年、父親がスパイ容疑でシベリアへ送られ、4年後に帰ってきたら人が変わっていたという。1980年代、まだ東西の壁がそびえていたころ4人の子のうち3人が西ドイツに行くと言い出し、今生の別れを覚悟するという体験もした。東西ドイツの壁崩壊にも寄与するなど、民主主義を求めて妥協なしの活動を展開。壁崩壊後は旧東ドイツ政府公安省解体の責任者となる。

そもそもヴルフ氏が大統領になったこと自体に無理があったのではないか。経済界出身の政治家は企業とのつながりを断ち切れない。弁護士だったゲーハルト・シュレーダー前首相も首相を辞めてからロシアの企業で役員をし、家を新築したと聞く。大統領は学問や宗教など別の分野から登用した方が意図にかなうのではないか。

ちなみにヴルフ氏は知事時代、当時シングルマザーだった現在の妻と知り合った。前妻と離婚する以前から、堂々と公の場に恋人を同伴していたが知事に再選。ガウク氏は妻と21年前から別居しているが、離婚はしていない。12年前から20歳年下の恋人がおり、大統領になったら一緒に大統領官邸に入居の予定だ。大統領官邸で初の結婚式かと噂されているが、ガウク氏は「急いで結婚することはありえない。将来もするとは限らない」との弁である。(ドイツ・ハノーバー=田口理穂)

 

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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