記事のポイント
- 製薬大手の英アストラゼネカは2030年までに植林活動に4億ドルを投資する
- 温室効果ガスの排出が避けられない「残余排出量」の除去をめざす
- 大規模な植林で気候変動への対応と同時に生物多様性の保全に取り組む
製薬大手の英アストラゼネカはこのほど、2030年までに植林活動に4億ドルを投資すると発表した。植林によって、温室効果ガス(GHG)の排出が避けられない「残余排出量」の除去を目指す。残余排出量を除去するには、カーボンクレジットを購入してオフセットする企業が多いなか、同社は大規模な植林によって気候変動への対応と生物多様性の保全を狙う。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■SBTネットゼロ認定、世界初取得の1社
アストラゼネカは2045年までに、科学的根拠に基づく「ネットゼロ」の達成をめざす。この脱炭素目標については、SBTイニシアティブから2021年10月、「SBTネットゼロ基準」の認定を受けた。
「SBTネットゼロ基準」 は、SBTイニシアティブが2021年10月に発表した新しい基準だ。
この基準では、企業の脱炭素目標が、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定で定めた長期目標と整合しているかを認定する。
企業にはバリューチェーン全体で2050年までに90%以上のGHG(温室効果ガス)削減を、残りの10%の「残余排出量」は大気中からの吸収・貯蓄などで「中和化」を求めた。
アストラゼネカは世界で初めてこの認定を取得した7社のうちの1社だ。
アストラゼネカ以外では、CVSヘルス(米国)、電通インターナショナル(英国)、ホルシム(スイス)、JLL(米国)、オーステッド(デンマーク)、ウィプロ(インド)――が認定を受けた。
■植林で気候変動も生物多様性も人の健康も
今回、アストラゼネカが植林活動に4億ドルを投資する理由は、残余排出量を除去するためだ。
残余排出量とは、GHGの排出が避けられない領域を指す。経産省はこの領域を「ネガティブエミッション」と名付ける。
この領域を吸収・貯蓄する方法としては、植林に加え、土壌炭素貯留(バイオマスを土壌に貯蔵・管理する技術)、BECCS(バイオマスの燃焼によって発生したGHGを回収・貯蓄する技術)、DACCS(大気中のGHGを直接回収し、貯蓄する技術)、ブルーカーボン(マングローブ、海草などのブルーカーボンの維持・再生)などがある。
これらの新技術に対して、吸収系クレジットとして購入することで除去したとみなすが、まだこの新技術は確立していない。
アストラゼネカは、大規模な植林によって、約30年間で3000万トンのGHGを除去するが、すべての残余排出量を除去するまでには及ばない。
植林以外も検討しているが、その他の方法はまだ模索中だという。
アストラゼネカでは、2045年までに絶対排出量の90%削減に挑む。植林を通して、2030年以降、大気中のGHGを除去していく。
植林を選んだ理由について、アストラゼネカ日本法人の光武裕・サステナビリティディレクターは、「製薬会社として『人々の健康』のために従事しているが、気候変動と生物多様性の損失は、人々の健康にもつながる。AZフォレストを通じて、気候変動への対応だけでなく、自然の再生、生物多様性の促進などへの貢献をめざしたい」と話した。