「バイオマス燃料はカーボンニュートラルではない」とPRI

記事のポイント


  1. バイオ燃料はライフサイクル全体で見ればカーボンニュートラルとは言えない
  2. こんな衝撃的な内容を、国連の支援するPRI(責任投資原則)が報告書で指摘した
  3. 森林資源は「切って燃やす」から「生きたまま活かす」へと舵を切る必要がある

バイオ燃料はライフサイクル全体で見ればカーボンニュートラルとは言えないーー。国連が支援する世界最大のESG投資家ネットワーク・責任投資原則(PRI)は、昨年12月に発表した報告書で、森林資源などの生態系を、燃料としてしか捉えない視点に警鐘を鳴らす。今後、求められるのは、バイオマスを生きたまま活かす方向性であり、過度なバイオマス燃料への依存は、企業のレピュテーションリスクや資本コスト上昇リスクにもつながりかねない。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

バイオマスは生きていてこそ価値がある

バイオ燃料はカーボンニュートラルではない

バイオ燃料というと、誰しも「カーボンニュートラル」で、再生可能な自然エネルギーだと考えるでしょう。木を燃やしても、また木が育てば同じ量の炭素を吸収するので、大気中のカーボンは差し引きゼロ、そんな説明が一般的です。しかし、話はそう単純ではありません。

2024年12月に公開されたPRI(責任投資原則)のポリシーレポート『欧州連合(EU)のバイオエネルギー政策と投資が気候と自然にもたらすリスクへの対応(※)』を読むと、そのことがよくわかります。

たとえば、バイオ燃料はライフサイクル全体で見れば、決してカーボンニュートラルとは言えません。伐採から輸送、燃焼に至るまでの過程を含めて考えると、むしろ化石燃料より多くのCO2を排出してしまうことすらあるのです。

PRIがこのように指摘したことは、きわめて重い意味を持ちます。なぜなら国連が支援して生まれたPRIは、いまや世界最大級のESG投資ネットワークとなっており、この世界でとても影響力が大きいからです。

ここで示された見解は、今後、世界中の機関投資家の投資判断に反映される可能性が高いと考えられます。

人類はこれまで、「燃やす」ことでエネルギーを得てきました。薪や石炭、石油、そして再びバイオマス。燃やせば熱(エネルギー)が出る。そのシンプルな原理に依存してきたのです。

しかし気候危機の時代においては、その発想そのものを問い直さなければなりません。「何でもかんでも燃やせばよい」という時代は、もう終わりを迎えつつあります。

■求められるネイチャーポジティブの視点

森林は、燃やしてこそ価値があるわけではありません。むしろ生きて存在していること自体に大きな意味があるのです。

炭素を吸収し、土壌を豊かにし、水を涵養する。そして多様な生き物の住処となり、結果的に私たちに多くの自然の恵みをもたらします。

これが「生態系サービス」であり、人間社会にとっても、企業活動にも、不可欠な存在です。

であれば、「切って燃やす」ことで燃料としての価値だけを消費するのではなく、「生きたまま活かす」方向へと舵を切り、もっと多くの恵みを受ける方が賢いのは明らかです。

この考え方は、新たな世界目標である「ネイチャーポジティブ」とも一致します。

自然を損なうのではなく、むしろ再生し、増やす。森林や湿地、草原を単なる資源として消費してしまうのではなく、それを育みながらその恵みを利用する。これがこれからの時代の基本的な方向性なのです。

企業にとっても、この転換は重要な意味を持ちます。投資家がバイオ燃料への投資を避けるようになれば、企業にとってバイオ燃料を作ったり、使ったりすることはリスクとなりかねません。再生可能エネルギーの一角として安易にバイオマスに頼ることは、レピュテーションリスクや資本コストの上昇につながる可能性があります。

このレポートの中でPRIは、一次木質バイオマス(森林から直接伐採された丸太や切り株や枝)をエネルギー利用することに対して、行政に財政的支援を停止するよう求めています。

また使用する場合でもその量に制限を設けることを提案しています。投資家だけでなく、法律等の制度も変更になる可能性があるのです。

■企業はバイオマスをどう考えるべきか

それでは、企業はこれからバイオマスをどう考えたらいいのでしょうか。

第一に、森林などの生態系を単なる「燃料供給源」としてではなく、NbS、つまり自然に基づく解決策(ネイチャー・ベースド・ソリューション)を提供する存在として捉えることです。

炭素吸収、水循環、防災、生物多様性の保全といった生態系サービスは、長期的に見れば燃料以上に大きな価値を持ちますし、燃やしてしまったらそうした生態系サービスを使うことはできません。

第二に、どうしても燃料として利用する場合は「カスケード利用の原則」に従うことです。

木材はまず建材や製品として長く利用し、それでも残った廃材や残渣を最後の段階で燃料にする。これこそが有効利用であり、持続可能な利用のあり方です。

もちろん、燃料として使用できる量は今までより少なくなりますが、経済的リターンはむしろ増えるはずです。

■バイオマスは生きていてこそ価値がある

正直に言えば、私自身もこれまで「バイオ燃料はカーボンニュートラル」という説明をしてきました。食料生産と拮抗しなければ、バイオ燃料はまぁ良いのではないかと許容してきたのです。しかし、ただ燃やしてしまうのはもったいないと引っ掛かる気持ちはありました。今から思えば、それをもっと掘り下げるべきでした。

木に含まれるカーボンは空気中のCO2を吸収・固定したものであり、燃やしてもまた木を植えれば、それが再びバイオマスとして固定されるのは確かです。しかし、それには長い時間がかかります。

一時的にであっても空気中のCO2は増え、それは気候変動を進行させます。測定データを待つまでもなく、思考実験だけでわかることでした。

そうしたことを考えれば、今回ご紹介したPRIのレポートは、科学的により正確な解釈に基づいたバイオマスの利用の仕方として、説得力があります。

重要なのは、「バイオ燃料=カーボンニュートラル」と安易に受け入れるのではなく、自然の恵みをどう活かすか、そしてネイチャーポジティブな未来にどうつなげていくかです。

このレポートは、その転換点を示す大きなシグナルになると思います。 単なる警鐘ではなく、今後のバイオマスの利用についての具体的な指針にもなっています。

「バイオマスは燃料ではない。生きていてこそ価値がある」 そのように私たちの発想を転換する必要があるのです。

※ご参考:日本語版「欧州連合(EU)のバイオエネルギー政策と投資が気候と自然にもたらすリスクへの対応」
PRIの英語版レポートは2024年12月に発表されましたが、2025年7月には地球・人間環境フォーラムから日本語版が公開されました。日本語版公開にあたり、私もコメントを書いています

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)522(2025年8月25日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」は、こちらからもお読みいただけます。

adachinaoki

足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

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