「1.5℃目標」は困難に、脱炭素で成長を描けるか

記事のポイント


  1. 米国の再離脱や欧州の政策行き詰まりなどにより「1.5℃目標」の達成が困難に
  2. 国際秩序の分断を前提に、日本は現実的な移行戦略を取るべきとの声も 
  3. 企業は共通の脱炭素目標の下、自社の成長機会をつくり出す戦略的対応力を

11月10日からブラジル・ベレンで開催されているCOP30(国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、パリ協定締結から10年という節目を迎えました。一方、世界はなお国際合意した「1.5℃目標」へは道半ばにあります。日本企業には、気候変動を制約ではなく「競争機会」と捉え、長期投資を通じて未来の企業価値を創出する構想力と実行力が問われています。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤直見)

■パリ協定10年の節目:COP30、世界の分断を映す

11月10日からブラジル・ベレンで開催されているCOP30(国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、パリ協定締結から10年という節目を迎えました。

産業革命前と比べて、地球の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるという国際的な気候目標である「1.5度目標」の実現には依然として大きな距離があります。理念と現実の乖離が広がるいま、各国の戦略の分岐が鮮明になりつつあります。

日本経済新聞「経済教室」では、11月3日・4日の2回にわたり、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員と高村ゆかり・東京大学教授が「温暖化対策の行方」をテーマに論考を寄せました。両者の視点は異なりながらも、「協調の中の競争」という一点で交わっています。

■「パリ協定は瓦解の危機、現実的な移行戦略を」

秋元氏は、気候変動対策の国際枠組みであるパリ協定が、米国の離脱や欧州の政策行き詰まりなどにより瓦解の危機にあると警鐘を鳴らします。

米国が協定からの再離脱を決定し、欧州も産業衰退に直面する中で、協定の持続可能性が揺らいでいます。秋元氏は、理想主義的な政策を修正し、合意当初の自発的・包括的な精神に立ち戻るべきと主張します。

EUは、環境面で持続可能な事業を定めたタクソノミー導入や内燃機関自動車の販売禁止などを進めました。しかし、これらの政策は製造業の競争力低下と雇用不安を招き、特にドイツでは現実路線への転換が進んでいます。

秋元氏は、幅広い技術を許容する現実的な移行戦略ーー省エネ、ハイブリッド車、燃料転換、デジタル技術の活用などを組み合わせた段階的・費用効率的なトランジションこそが実効的な排出削減につながると強調します。

2025年2月に閣議決定された地球温暖化対策計画、第7次エネルギー基本計画、グリーントランスフォーメーション(GX)2040ビジョンは、カーボンニュートラル(CN)目標を堅持しつつ、原子力・LNGの活用によるエネルギー安定も重視しています。

秋元氏は、理念先行ではなく、経済と環境の調和を重んじた粘り強い現実主義こそが、日本が世界に示すべきリーダーシップの形だと結んでいます。

■「脱炭素の潮流はもはや後戻りしない」
■気候変動対策は成長戦略でなければ持続しない
■予見可能性を自らつくり出す主体的経営へ

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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