
映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(2019年、米国)が12月17日に公開される。一人の農民の声を受け止め、広域に及ぶ公害の実態を暴いた実在の弁護士ロブ・ビロット氏の苦闘が映画化された。自然界に放出した化学物質の毒性を知りつつ、自社を守るために隠ぺいする企業の姿は、日本の水俣病やイタイイタイ病を思い起こさせる。しかし、この映画で問題とされた有機フッ素化合物は種類が多く、規制は始まったばかりだ。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)
巨大企業デュポンを相手に闘う農民と弁護士
飼っていた牛を奇病で190頭も失った農民ウィルバー・テナント氏(実名・故人)が相談したのは、知人の孫にあたる弁護士だった。巨大多国籍企業であるデュポンを相手に闘ってくれる弁護士が見つからず、つてを頼りに訪ねてきたのだった。
ストーリーは1965年生まれの弁護士ロブ・ビロット氏の実話に基づいており、エンドロールで種明かしがあるが、本人も作品に登場している。
環境活動にも積極的な俳優マーク・ラファロは、ビロット氏を取り上げたニューヨーク・タイムズ紙の2016年1月6日の記事に触発されて映画化を構想。トッド・ヘインズ監督やアン・ハサウェイらの参加を得て、自らロブを演じた。
一部の有機フッ素化合物が公害を引き起こす
この映画で公害を引き起こすのは、フライパンなどに使われる耐熱素材、「テフロン」(登録商標)の製造工程で使われていた有機フッ素化合物で、8つの炭素がつながった構造のため「C8」とも呼ばれる。
環境省によると、C8である有機フッ素化合物のペルフルオロオクタン酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は2010年以降、日本では製造も輸入も届け出がない。日本では2021年10月にPFOAの製造・輸入を原則禁止とする法律が発効している。
しかし、撥水性や撥油性に優れた有機フッ素化合物のバリエーションは数千種あり、日用品に幅広く使われている。有害性が確定した物質から規制が始まっているが、代替物質が安全とは限らない。
映画は、企業弁護士でありながら住民側に立った主人公や、その仕事の価値を認め支えた妻や上司を中心とした人間ドラマを描いている。
トッド・ヘインズ監督は、「真に焦点を当てるのは、平凡な人間であり、彼または彼女のたどる過程である。真実に立ち上がることでその人物が直面する、致死的とまではいかないにしても、精神・感情面の危機である」と述べている。