記事のポイント
- 三井不動産や住友林業などが建設時のGHG排出量算定で取引先を支援
- 三井不動産と日建設計は「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定した
- 住友林業は算定をツールで簡易化し資材納入業者やデベロッパーをサポート
三井不動産や住友林業などが建設時のGHG排出量算定で取引先への支援を始めている。三井不動産は22年3月に日建設計と、「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定した。住友林業は1月からCO2排出量の見える化ツールの提供を始めた。省エネの普及で建物使用時のCO2排出量削減が進むなかで、建設時や解体時のGHG排出量の可視化・削減へ取り組みが本格化した。(オルタナ編集部・萩原 哲郎)

建物のGHG排出量については、運用時のCO2排出量(オペレーショナルカーボン)のほかに、建材の調達や建設段階から解体・廃棄に至るまでの「エンボディドカーボン」がある。
これまで運用時のGHG排出量の可視化・削減は取り組まれてきたが、建設時と解体時は進んでこなかった。業界全体で、建設時・解体時も含めた建物のライフサイクルでのGHG排出量を算定しようとする動きが広がる。
住宅・建築SDGs推進センターは12月から「ゼロカーボンビル推進会議」を開催する。3月上旬には第2回の会議をオンラインで開いた。会議には有識者のほか国交省、環境省、経産省がオブザーバーとして加わる。
会議では議論を通じて、エンボディドカーボンについての評価手法の整備やゼロカーボンビルの普及・推進を目指す。来年度にはシンポジウムも行う予定だ。
■国際規格との整合性も必要に
業界大手も建設時のGHG排出量の算定へ動き出した。
三井不動産と日建設計は22年3月に「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定した。このマニュアルは日本建築学会の「建物のLCA指針」を実務的に使いやすいようアレンジしたものだ。
このマニュアルは、実務者の運用方法の違いによる計算結果のばらつきを是正する詳細な解説と、パラメーターを入力すると算定できる支援ツールで構成される。従来の工事総額に一定単価を乗じた方法から部資材ごとの積上方式とすることで、GHG排出量算定の精緻化を目指す。
中長期的には、同業他社などとも共有して、より使いやすく整備していく。
住友林業では2月から「脱炭素設計サポート事業」を始めた。
同社は22年1月に、建設時のCO2排出量を見える化するソフト「One Click LCA」を展開するフィンランドの企業と日本単独代理店契約を結んだ。8月からは日本語版ソフトを発売する。
「脱炭素設計サポート事業」では木材・建材メーカー向けと、デベロッパー、ゼネコン、設計事務所向けの2つのサポートを用意する。
木材・建材メーカー向けには環境ラベル取得を支援する。製品のライフサイクル全体でCO2排出量が算定できるツールを販売する。ラベル取得までツール上で行うことができる。
デベロッパーやゼネコン向けにはLCA算定受託を行う。建物の資材データをもとに、建物全体・資材別・部位別・ライフサイクルごとなど、建設時のCO2排出量を算定しレポートにまとめる。
海外ではエンボディドカーボンの可視化や削減に対する取り組みが進む。
住友林業の木材建材事業本部ソリューション営業部の鈴木俊一郎チームマネージャーによると「海外では建物の一連の建設プロセスで発生するエンボディドカーボンの見える化が普及しており、欧州の一部の国では規制も整備されている」と話す。
米国のグリーンビルディング協会が運営する建物の環境認証・LEEDでも、エンボディドカーボンの算定が加点ポイントになることもある。
日本でのエンボディドカーボンの見える化・削減の取り組みは遅れた。しかしグローバル企業などからの要望もあり「建設業界においても、算定の動きが活発化し始めた」(鈴木氏)。
取り組みが進む中で、国際基準との整合性も問われる。鈴木氏は「海外からの投資家やテナントが、日本の建物を公平に評価できるよう、国際規格に準拠した算定ツールの普及が必要だ」と話した。