ロングインタビュー「この会社はすでに一族のものではない」

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■昔から「ボトムアップ」の会社

――この「INAX5」を拝見して思ったことが2つあります。一つは先ほど申し上げたように、まず第一番目に存在意義、「社会に貢献し」というのが出てくるというのが一つですね。二つ目は、「INAX5」には「製陶」という言葉も出てこなければ、「お風呂」とか「便器」とかね、具体的な言葉は出てくるわけではないと。つまり、割に緩やかな言葉を使っていて、あとは自分たちで考えなさいというニュアンスが入っているような気がするのです。

伊奈:そうでうね、まさにおっしゃる通りこの「INAX5」という冊子を作って、全社員に配っている中に書いてあるのですけれども、これだけではなくて、多少の、あと数行の説明を加えてあるのですが、あとは自分たちそれぞれの職場で話し合ってくれと。与えられたものを理解するのではなくて、ある程度の方向みたいなことは書いてあるけれども、あとは自分たちで話し合ってこれをどう理解していくかという、そのステップこそ大切ではないのかなと。

――川本さんとインタビューさせて頂いた時に「この会社はボトムアップの会社である。トップダウンではない」と言われました。

伊奈:それは昔からそうなのです。

――どうして昔からそうなのですか。

伊奈:どうしてそうなのか知らないけれども、私が入る前からずっとそんなようになっていたみたいですね。

――そうですか、これはでも、非常に面白いですよ。何か理由があるような気がするのです。

伊奈:どうですかね。私の親父は、私にも何も命令しなかったけども、やっぱり人に命令したくなかったのかしなかったのか、そのような考えだったと思います。よく「馬を水辺に連れて行くことはできるけども、飲ませることはできない」と言います。それに近いのかな。

■社長は「方向性」だけを指し示す

――そうですね。でもこれはかなり深い問題ですね。

伊奈:それはね、私がどうしたというよりも、もうすでにそうなっていた。非常にファミリー的な雰囲気のある会社であり、みんながそれぞれ自分たちで考えて自分たちの仕事をやっていくという考え方がありました。

――僕もオルタナという会社を経営していて、指示を出したり、怒ったりもするわけです。でも何も言わないというのが信じられないのです。つまり、何も言わなくてうまく回れば良いですが、うまくいかなかったときにどうするのでしょうか(笑)。

伊奈:経営者として考えると私は本当にある意味では、事業というのかな、そういうものを本当にしてこなかった社長だと自分では思っています。こういう商品を作ろうとか。そういうことはほとんどやってなくて、こういう会社にしようとか、「サービス業型製造業」ということを言っているのですけれども、ただモノを作っているだけじゃなくてサービス業だという感じの会社にみんながそうやってやろう、サービス型製造業の会社にしようということは言ってきました。

――つまり、おそらく社長が方向を指し示す。船で言うと舵だけは取って、あとエンジンを回すのは社員の仕事だということだと思うのですけど、こっちの方向へもっと行こうよと言って、多分自分が言っていることと会社の現状に乖離がある時もあったのではないでしょうか。

伊奈:それはありますね。なかなか皆がそう思わないなと、無理に思わせてもしょうがないよなとか、そんな感じじゃないですかね(笑)。

――(笑)。そうですか、すごいですね。そこまで達観されるとは。

伊奈:それでやって来れた良い時代だったということじゃないですか。

■社長としての仕事はしてこなかった

――でも今の日本を見ても、そういう経営者の方はかなり少ないと思います。

伊奈:だから私は、本当に仕事はしてこなかった、自慢じゃないですよ。自慢じゃなくって、たぶん珍しい社長ではないかなと。

――そうおっしゃること自体、珍しいですよね。

伊奈:(笑)。よく、ほかの企業の社長さんとも会ったりするのですが。

森:堤義明さんなどは逆ですよね。

伊奈:ゴルフ場行って、たばこの吸い殻入れの高さまで、ここでは10センチ高すぎるとかね、自分でゴルフ場の吸い殻入れの高さまで記して、それからお茶出してくれるグラスなんかもね、こういう形は洗っているときに割れるから、別の形のグラスを使いなさいとか。

――分かります(笑)。

伊奈:いやぁ、すごいなと。逆に私から言うとすごいなと思いました。

――僕がよく覚えているのが、ダイエーの中内さんがご存命の時に、当時子会社のローソンの5千店舗目の開店セレモニーに中内功さんが来たのです。

セレモニーの前にお店をグルッとチェックして、その後ろにはローソン社長が直立不動でついて回っていました。中内さんがアイスクリームのショーケースに指を当て、「霜がついとるやないか」と指示すると、社長が「ハイ、分かりました」とオタオタする。

堤さん然り、中内さん然り、そういうタイプの経営者だったわけですね。でも中内さんは中内さんでモノを安く売るということで、あの人は、僕は社会に貢献しようとしていたことは間違いないと思います。

伊奈:そうですね、切り開いたし。非常にね、我々こう、ちょっとあっただけでね、それこそ消費者を相手にしている仕事の経営者だなあと思いました。一個人としてすごく大切にしてくれるというか、後々まで何かと連絡をくれたりしましたし。

――お手紙が直接、来たりするのでしょう。

伊奈:そういうのが中内さんは、やっぱり個人を、一人一人の個人を対象にしている、仕事にしている経営者だというふうに私は思いました。やり方が違うのだろうなと思いますね。

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2010年6月8日(火)13:35

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