ロングインタビュー「この会社はすでに一族のものではない」

■リーダーに必要なのは「倫理観」と「情熱」

――なるほど。時代の流れも合っているのかもしれないですね。つまり、高度成長がずっと続き、おそらくバブルに行くその過程くらいのタイミングがそうですね。でもそれはおそらく今も、今まさに、先ほどから申し上げているような転換点にいる状況においてはやっぱりもっと多くの企業が、そういうふうに変わっていかなきゃいかないというのは、ということを思う経営者が多分多いとは思うのですけど、なかなか全社的に方向性を変えるというのは確かに難しい。

伊奈:そうなのですよね。要するに全社的にやらないとできないと言いたかったので、全国を歩いたのです。

――北海道から九州までですが、会社を経営するというのはもちろん社長一人ではできないわけですから、必ず人の手が必要です。それをどう動かすかというのは多分永遠のテーマのような気がします。だからさっきも名前が出てきたような中内さんとか堤さんも、あれも一つの形だったのかもしれないし、それで成長してきた成功例だっていっぱいあるわけです。

いろんなかたちがあっていいとは思うのですけど、僕も21世紀の会社というのは、つまり20世紀型じゃなくてね、21世紀の会社は伊奈会長が持ってこられたようなボトムアップ、それで社員たちに考えさせるというのは一つの答えなんじゃないかなという、そういう思いもずっと持っていまして、それで是非お会いしたいなと思いました。

伊奈:よくリーダーの資質は何だと、よくいろんなところで質問されるじゃないですか。私はその時に言ったのは「倫理観と情熱」[iy9] だと言ったのですけれども、トップの倫理観というのは企業にとって最近はもう企業の死命を制するくらい重要なことです。あんまりそんな倫理観、企業倫理観なんてことはそう言われていた時代ではなかったと思ったのですが。たとえば能力というのは、能力はあればあるに越したことはないのだけども、能力というのは誰かに助けてもらうことができる、だけど倫理観というのはトップに立つ一人が持っているものに企業が従っていかざるを得ない。

■能力が問題でもヒトに助けてもらえる

――そうですね、それ以上のものはできるわけじゃないですからね。

伊奈:その倫理観というのは一番上に立っているその人に依存するものです。それから情熱は人から助けてもらうことのできないものです。能力は、いくらでも人に助けてもらえるもの。洞察力だとか統率力だとかいろんなことが先に出てくるケースが多いと思うのですけども、私は「倫理観と情熱』ということを言ってきたのです。

――最近ではコンプライアンスや企業倫理とかを改めて言っているのですけれど、僕はよくコンプライアンス部を作るというのは、作らないと守りませんみたいな、そういうニュアンスを感じてしまうのです。

伊奈:それは本当にトップの人が、本当にそう思っているんだなと社員が信用しないとダメなのですよね。

――そうですよね。やはりそれは社内通達とかではなくて、経営者の意気込み、立ち居振る舞いが問われるというか。

伊奈:立ち居振る舞いでわかるわけですね。文章がいくらちゃんと書いてあっても。

■セントレア空港でボランティアの仕事に

――最近ではボランティアをおやりになっているということなのですけど、セントレア空港で案内などをされているそうですね。

伊奈:始めた動機というのはですね、大きな国際空港が目の前にできたのに、時々旅行するときに便利だねではつまらないと、なにかこう常にもっと自分が「おらが空港」みたいな感じ方ができないかなと思っていたらボランティアの募集というのがあったので、応募しました。

ちょうど、だんだん組織から身を引いていく時期とほぼ合っていたものですから。そういう組織の中でやる仕事は終了したと、あとは一個人として何か、ただ遊んで暮らすだけではなくて、何か世の中との接点が持てればいいなというのと、目の前にある空港をもっと自分の身近に感じていたいというのと、ただそのへんが動機でしょうね。

――なるほど。いかがですか、ボランティアされていて楽しいですか。

伊奈:楽しいですね、これは。もう毎日、今日は何が起こるか、どういうことが起こるのかというのが分からないというのが仕事と違っていて、今日はこれをやるんだということがないわけで、みんなすべて出たとこ勝負ですから。仕事を通して付き合ってきた人たちとはちょっと違う人との付き合いなのですよね。男性の場合ですとリタイアした人が多いですが、男性の人ですとリタイア、女性の人ですともうちょっと若い、ある程度、いわゆる子供の手は当然離れたような、そういう主婦の人が多いです。あとは逆に若い人もいますが、比較的高年齢者が多いです。やっぱりボランティアをしようという志を持った人ばかりですから、そういう意味の共通点はありますよね。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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