大久保 和孝(新日本有限責任監査法人 CSR推進部長)
企業経営にとって、本当に必要なことは何なのか。CSRやコンプライアンス、BCPなど経営課題が次々と出てくるが、それらの背景にある経済社会の本質をとらえないと、屋上屋を重ねるだけで言葉遊びに終始し、効果的な取り組みができない。
CSRを単に「企業が社会貢献をすること」、コンプライアンスを「法令順守」ととらえることで、ビジネスの実態とは関係無く能書きが展開される恐れがある。それでは、実質的な企業活動に繋がらず、表層的な議論にとどまりかねない。
企業が直面する経営課題が、単純に白黒の判別ができることばかりであれば、全ての事象をルール化し、それらを徹底すれば、うまくいくはずである。しかし現実は、白黒判別できないことや唯一の解決策がない課題に直面することの方が多い。例えば、セクハラのように当事者の意思が尊重されるものはマニュアルだけでは対応できない。
他方、企業活動に反対運動を繰り広げるNGOなどに対して、こうすれば解決できるといった画一的な方法はない。こうした環境下では、複雑な課題への対応力を身に付けた人材が求められる。
つまり、環境変化を敏感に察知し、その本質を読み取り、自分の行動の中に取り込む能力、臨機応変に対応できるリベラルアーツに根ざした思考力と、交渉学に学ぶ対話と議論を通した落とし所を導くことのできるリーダーシップを発揮できる人材である。
もともと法令は、社会からの要請や期待を、共通の文書化・規範化したものに過ぎない。「法令順守」の前提にあるのは、社会からの要請と法令が適時に一致していることである。しかし、わが国では、両者に相当のタイムラグが生じることが多い。
昨今の急激な社会の価値観の変化に法令そのものが即応できていないことも事実だ。法令そのものが社会の価値観を反映しきれていない場合に、法令を形式的に守っているだけでは、時には社会の要請に反した行動にもなりかねない。
リベラルアーツ学んだ人材の育成を
社会の要請に応えた経営をしていくためには、法令の背後にある社会の環境変化や価値観をとらえる事が不可欠だ。そして、それらの環境変化を自分たちの業務に置き換え、自ら対応方法を考えることで、自身の行動を環境変化に適応させていく。