なぜ、日本企業は人権問題に苦慮するのか【企業と社会の関係】

そして「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に関する国連人権委員会の事務総長特別代表 ジョン・ラギー氏により、企業と人権に関する「保護、尊重、及び救済枠組み」が構築され(2008年)、それを実施するための「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」が採択されました(2011年)。

この枠組みは、次の三つの柱から構成されています。
・国家は、企業を含む第三者による人権侵害から保護する義務を負うこと
・企業は、バリューチェーンを通して人権を尊重すること「人権デューデリジェンス(人権侵害を受けるかもしれない社会的弱者などの視点によるリスク管理)の実施を含む」
・人権侵害の犠牲者は、実効的な救済手段へのより容易なアクセスを有すること

本枠組みは、欧州委員会による政策文書(すべての欧州企業にUNGPに合致する行動を求める内容)や、ISO26000、OECD多国籍企業ガイドライン(2011年改訂版)、GRI3.1および4.0など、その後の企業と人権に関する国際的動向に大きな影響を与えました。こうして、多くの国際基準を通して人権デューデリジェンスへの取り組みが推進されることになってきました。
 
熊谷氏、黒田氏による上記報告の後、谷本教授を交え「日本企業は人権問題に取り組むために、いかに実施方針/体制をつくり、モニタリングを行っていくか」という問いを中心に議論が行われました。

国際的ガイダンスへの対応に迫られる中、グローバルオペレーションばかり気がとられがちでありますが、これまで多様性、内部通報、セクハラなどで取り組んできたことがいま、人権問題に位置づけられたのであり、日常的なことに目を向けるべきであることも指摘されました。サプライチェーンにおいて課題が発見された際にどう対応するか検討しておくこと、最初のコンタクトに丁寧に取り組むことが重要であることが指摘されました。

今回の「ビジネスと人権」のテーマについては、「CSRリスクマネジメントに関する国際会議」(経済人コー円卓会議日本委員会主催、JFBS ほか後援、9月5日開催)、「国際ジョイント・カンファレンス:CSRとコーポレート・ガバナンス」(JFBS 主催、9月19〜20日開催)においても議論予定です。

(この記事は株式会社オルタナが2013年8月5日に発行した「CSRmonthly」第10号から転載しました)

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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