激減と激増、島に生きる2種のトカゲ――私たちに身近な生物多様性(14)

IUCN(国際自然保護連合)が定義する「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」には、2014年11月時点で約2万2千種が登録されている。生物多様性の確保は喫緊の事項だ。本コラムでは、味の素バードサンクチュアリ設立にも関わった、現カルピス 人事・総務部の坂本優氏が、身近な動物を切り口に生物多様性、広くは動物と人との関わりについて語る。(カルピス株式会社 人事・総務部=坂本 優)

三宅島のオカダトカゲ(1977年、小畔光一氏撮影・提供)
三宅島のオカダトカゲ(1977年、小畔光一氏撮影・提供)

伊豆諸島の三宅島はかつて、オカダトカゲの楽園だった。1978年夏、私は鳥類学者の樋口広芳先生が東京都から受託した、御蔵島のオオミズナギドリの調査に参加していた。

当時、私は法学部の大学生だったが、学外の動物の研究会で先生の面識を得る機会があり、同じキャンパスにおられたことから、以後、時々研究室にお邪魔してお茶をごちそうになっていた。そんなご縁もあり、荷物運びなどさせていただく口実で、押しかけ「調査隊員」になっていた次第だ。

途中、三宅島で先生旧知の民宿に泊まったおり、今も記憶に深く刻まれている光景を目にした。

それは、翌朝のことだ。初めていただいたアシタバの味噌汁も印象的だったが、はるかに、新鮮な驚きだったのは、庭に幾つかある四角い空き缶(一斗缶)やブロックなどの上で、朝の陽射しを浴びている何匹もの、茶色いトカゲの姿だ。

体色は本土のトカゲ、カナヘビに似るが、ウロコには、より光沢がある。(1977年、小畔光一氏撮影・提供)
体色は本土のトカゲ、カナヘビに似るが、ウロコには、より光沢がある。(1977年、小畔光一氏撮影・提供)

一斗缶は、食用油や、水煮のタケノコ、コンニャクなどが入っていた、長方形の金属の缶だ。最近は少なくなったが、空になった一斗缶はさまざまなことに活用されていた。鉢植えの鉢代わりにしたり、子どもが魚を飼ったり、あるいは、側面に釘で穴をあけ、蓋をとった上部に網をのせて、かまど代わりにも使ったりと、便利だった。そのため使い終わっても捨てることなく、庭や物置に置かれていた。

民宿の庭にも、空の一斗缶が置かれていて、そのそれぞれに茶色っぽいトカゲがいて、のんびりと昼寝のようにじっとしていた。本土に比べ警戒心の薄い様子に見入っていると、隣で先生が、「三宅島は本当に、トカゲが多い島なのですよ。」とおっしゃっていた。

そのトカゲ――オカダトカゲは現在、三宅島でほとんど見られなくなった。原因は、ネズミ駆除のために移入されたホンドイタチによる捕食だ。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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