対策の効果を上げる、トヨタ式「現状把握」のコツ

トヨタ財団は6月15日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える「トヨタNPOカレッジ カイケツ」第3回を開催した。今回は、「問題解決」の8ステップの2つ目「現状把握」。17団体の代表が4グループに分かれて、「あるべき姿」に対し、どのようなギャップ(問題)があるか、講師とともに現状把握を行った。(オルタナ副編集長=吉田広子)

■現状の姿を客観的に見直す

グループごとに問題がどこにあるのか、現状把握を進める

「トヨタNPOカレッジ カイケツ」は、トヨタ財団が助成金を拠出するだけでなく、トヨタ自動車の手法を活用し、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に企画した。これにより、各NPOが社会課題解決の担い手として各地域で活躍してもらうことを目指す。2016年度に続き、2期目の開催となる。

講師は、トヨタ自動車業務品質改善部の古谷健夫主査、同社同部第1TQM室の藤原慎太郎主査のほか、元トヨタ自動車の改善QA研究所の杉浦和夫氏、のぞみ経営研究所の中野昭男所長の4人が務めている。

「現状把握」とは、現状の姿を客観的かつ定量的に認識すること。「ありたい姿」に対して、どのようなギャップ(問題)が起きているのかを整理し、重点的に取り組む問題を絞り込んでいく。

古谷講師は「ストーリーテリングが大切」とし、現状把握をする際に、登場人物や仕事の流れ、時間軸など全体像を見える化し、「どこ」で問題が起きていそうか、参加者と整理していった。

■問題は「4W」で整理

ブートピア代表理事の瀬下翔太さん(右)は高校生向けの「教育型下宿」を展開

NPO法人bootopia(ブートピア/島根県津和野町)の代表理事・瀬下翔太さんは、津和野町に移住し、2017年4月に高校生向け「教育型下宿」を開始した。

過疎・人口減少が進む島根県は、県外から生徒を呼び込み、島根県立高校に入学してもらう「しまね留学」に力を入れている。2009年はしまね留学の生徒数が50人だったのが、2015年には151人に増えた。

ブートピアは、津和野町の観光宿「縁の宿 幸楽」と連携し、島根県立津和野高校に在学する生徒5人に教育型下宿を提供。旅館の稼働率を上げるとともに、高校生の学習支援を行う。高校生には地域活動に参加してもらうなど、旅館から津和野町を元気にしていくことが狙いだ。

ところが、オープンから2カ月が経ち、毎日の生活のなかで運営面の問題が出てきた。

現状把握として1日の動きを確認してみると、夕飯やお風呂の時間など、ちょっとしたずれが日々起こり、旅館の負担が大きくなっている。コーディネートを行うブートピアも管理業務に追われ、本来の学習支援に手が回らなくなってきた。

そこで、解決したい問題のテーマを「下宿事業の生活管理における指導(時間)コストを短縮し、学習プログラム開発の時間をつくる」に設定。杉浦講師は「合わせて、本来何をすべきなのか、本業は何かを明確にしていく必要がある」とアドバイスした。

「現状把握」以降のステップに、「目標設定」「要因解析」「対策立案」がある。だが、現状把握を行い、さまざまな問題を見つけると、それを解決するようなアイデアをすぐに実行したくなる。

スピード感や実行力が大事な一方で、中野講師は、「現状把握を行うことで、問題が特定でき、その問題に対する対策立案の質が変わってくる。その対策が正しかったかどうか、検証もできる。対策にいきたい気持ちをぐっとこらえ、問題に向き合う必要がある」と話す。

NPOは社会的課題の解決を目指し、日々業務に励んでいる。

藤原講師は、「ありたい姿に対し、ギャップ(問題)が大きいと、テーマや解決すべき問題が抽象的になりがちだ。現状把握では、問題を分解し、小さい問題から取り組む。そこで得た学びをさらに次の問題解決に生かしていく」とする。「現状把握では、4W(何、いつ、だれ、どこ)の層別に、問題整理をしていくと分かりやすくなる」と続けた。

カイケツの第4回は7月13日に開催される。問題を解決するための3つめのステップ「目標設定」を行い、どこで、いつまでに、何をやるのかを決めていく。

◆第1回「テーマ設定」――「悩み」から「問題の明確化」へ

<トヨタ自動車の「問題解決」の8ステップ>

1.テーマ選定:
解決すべき対象を決める。問題の重要性、問題が拡大傾向にあるか、問題の影響の大きさなど様々な観点から何を解決すべきか判断する。経営者の重要な役割。

2.現状把握:
現状の姿を客観的かつ定量的に認識すること。事実・データに基づいて伝えることがポイント。

3.目標設定:
何を、いつまでに、どのようにするのかを具体的に決める。マイルストーンを置いて、取り組みの経過を可視化する。

4.要因解析:
なぜを繰り返して、真因を探る。なぜを繰り返すことで、具体的な実施事項が出てくるので、論理的、合理的な解決策が期待できる。

5.対策立案:
対策内容を整理して、実行計画を立てる。5W1Hを明確にして、最も効果的と思われる対策案から手掛けていく。

6.対策実行:
計画通りにやりきることが大切。

7.効果確認:
対策内容への評価を行う。「対策をほとんど実施し、期待通りの成果が出た」「対策はほとんど実施したが、成果は得られなかった」、「対策はほとんど実施しなかったが、期待通りの成果が得られた」、「対策はほとんど実施せず、成果も得られなかった」の4つのパターンが考えられる。

8.標準化と管理の定着:
効果が出た対策の内容を標準化して、その後の取り組みに反映させていく。こうすることで、同じ問題の再発を防いでいく。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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