東京五輪、紙調達基準案が抱えるリスク

紙の生産は大量の原料を利用して一挙に生産するため、認証材の原料だけを利用するとは限りません。多くの場合、認証材と非認証材を投入して生産した上で、投入した認証材と同じ量の認証紙を生産したとする「クレジット方式」を採用しています。

原料となる認証材については認証基準を満たす必要がありますが、非認証材についても一定の基準を満たすことが求められます。これをFSCでは「管理木材」、PEFCでは「管理材」と呼んでいます。よって、調達原料の環境・社会配慮の達成状況を確認するには、水準の低い非認証材でチェックすることが必要です。

以下、基準3~5について、FSCとPEFCの認証基準が、今回の調達基準案を満たせるかどうかを、環境・社会面から検討してみたいと思います。

特に「別紙(認証紙以外の場合の確認方法)」(※「持続可能性に配慮した紙の調達基準(案)」3ページ目)も参照し、認証紙に混入が認められている「非認証材チェック基準」としての「管理木材基準(FSC)」や「管理材基準(PEFC)」についても見ていきます。

環境保全について

基準3は、「生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること」とありますが、前述の「別紙(認証紙以外の場合の確認方法)」には、「泥炭地や貴重な天然林など保護が必要な重要な森林等がある地域についてはその保全のための措置が講じられていることを確認」とあり、保護対象は「貴重な天然林」や「重要な森林」であり、一般の天然林は対象になっていません。

しかし、持続可能な開発目標(SDGs)の2020年の前倒しターゲットとして「森林減少阻止」が掲げられており、一般の天然林も対象としています。その意味でSDGsとの整合性が取れておらず、是非、パブコメでも提起してもらいたい点です。

PEFCの「管理材基準」では、「一次林の人工林への転換を含む森林の他の植生への転換」は排除することとなっていますが、伐採が入るなどした天然林(二次林)の人工林への転換については除外していません。

結果として「二次林を皆伐して得られた天然木」については、PEFCの管理材として利用されるリスクがあります。また「生物多様性の保全および森林の他の用途への転用を含む林業の施業と伐採」「環境的および文化的な価値が高いとして指定を受けた区域における施業」「保護の対象となっている種や絶滅危惧種(CITES の要求事項を含む)」といった面での合法性についての確認は行われますが、環境法令遵守以上の環境配慮は規定していません。

よって、たとえ生物多様性価値が高い森林や、環境的・文化的価値が高く重要な森林と考えられる「環境上重要な地域」だとしても法規制対象でない場合にはPEFC認証の管理材基準のリスク評価では低リスクと判断されます。国によっては規制が弱く「環境上重要な地域が適切に保全」されないことは十分考えられるので、この基準はクリアできていると言えません。

一方、FSCについては、許容できない供給源として「管理活動により高い保護価値(HCV)が脅かされている森林からの木材」「人工林または森林以外の土地利用に転換されている森林からの木材」を規定しており、「環境上重要な地域」については「保護価値の高い森林」という概念でカバーし、森林減少については転換阻止の規定で対応しています。

「保護価値の高い森林」は、法規制を超えて設定された「保護価値」の基準に基づくもので生物多様性価値や文化的価値、泥炭地保全規定、地域住民のニーズ等を含む概念となっています。

社会的配慮について

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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