組織や人のせいにしない、トヨタ式「問題解決」

トヨタNPOカレッジ「カイケツ」

トヨタ財団は5月17日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える「トヨタNPOカレッジ カイケツ」第3期を開講した。参加した17団体25人は、約7カ月間をかけてトヨタ式「問題解決」を実践する。初日は、問題解決の全体像を学び、18日には第1ステップの「テーマ選定」を行った。受講生は4グループに分かれ、何のためにどのような問題を解決したいのかを話し合った。(オルタナ副編集長=吉田広子)

社会課題解決の担い手であるNPOは、大きなビジョンを掲げ、邁進する一方で、人材や資金の確保など、さまざま問題を抱えている。目の前の問題や困った人たちを助けることで手一杯になり、組織の基盤づくりに手が回らないことも多い。

そこで、トヨタ財団は2016年に「トヨタNPOカレッジ カイケツ」を開始した。助成金を拠出するだけでなく、トヨタ自動車の手法を活用し、NPOなどに問題解決力を身に付けてもらうことを目的にしている。

講師は、トヨタ自動車業務品質改善部の古谷健夫主査、日野自動車TQM推進室の鈴木直人主査、元トヨタ自動車でのぞみ経営研究所の中野昭男所長、中部品質管理協会企画部の細見純子次長の4人が務めている。

■お金があれば解決するのか

「問題」とは、「目指す姿」と「現状の姿」のギャップを意味する。問題解決の第1ステップである「テーマ選定」は、何を解決すべきかを決定し、改善したい課題を1文にまとめるステップだ。「何に対して」「何を」「どうしたいか」を具体的に設定する。

テーマ選定のワークショップでは、まず団体のミッションを確認した。講師の指導のもと、受講者一人ひとりが「だれに対して」「どのような価値」「何を提供している(したい)のか」を言語化していく。そうすることで、目指す姿に対し、どのような状態にあるのか、どこに問題がありそうかを認識することができる。

初回のワークショップのため、受講生は自分たちの思いとともに、「人手が足りない」「情報共有ができていない」といった悩みを次々に明かしていく。なかでも、「資金調達」はNPOが抱える最も大きな問題の一つだろう。

講師を務める日野自動車TQM推進室の鈴木直人主査(右)とOVA事務局の土田毅さん

特定非営利活動法人OVA(東京・新宿)は、自殺予防の啓発や自殺リスクが高い人たちへの支援、社会に対する提言など、自殺予防に関するさまざまな取り組みを行っている。検索連動広告を活用した自殺予防の相談活動「夜回り2.0」は代表的な事業の一つだ。

OVA事務局の土田毅さんは、新たな自殺対策事業を始めるにあたり、「資金調達源を多角化したい」という思いでカイケツに参加した。担当する鈴木講師は「何のために、どの程度、資金を集めたいのか。お金があれば問題が解決し、事業がうまくまわるのだろうか」と投げかける。

土田さんは「自殺の手前の支援を届ける」ことを目指しているが、「具体的にどのような人に何を提供するのか。どのくらいの資金が必要なのか、まだはっきりしていなかった。お金があれば、事業をスピードアップできると漠然と考えていたことに気付いた」と話す。「学んだことを組織の人たちと共有して、問題や対策案を見つけていきたい」と意気込んだ。

鈴木講師は「手段がテーマや目標になってしまうのはよくあること。『何のために』という視点を忘れないようにすることが大切。NPOの皆さんは強い思いを持ち、柔軟性がある。一緒に問題を解決していければ」と語った。

■業務対応能力を5段階評価で

講師ののぞみ経営研究所の中野昭男所長と受講生ら

文京区社会福祉協議会総務係の根本浩典主任は、「異動の多い職場で、一から業務を覚えることが多い」という問題点を挙げる。同協議会では住民支援やボランティア活動、地域福祉、中間支援など業務が多岐にわたる。

根本さんは「職員の業務対応能力の向上」をテーマに、「職員がさまざまな業務に対応できるようになる」ことを目指す。中野講師は根本さんに問いかけながら、「どのくらいの職員が、どのレベルまでできるようになることを目指すのか」、丁寧に掘り下げていく。

そこで根本さんは「8割の職員が全業務に対応できるようになる」ことを目標に掲げた。根本さんは「職員一人ひとりが能力を発揮できる環境づくりをしていきたい」と語る。

仕事のできる・できないに関して、中野講師から、次の5段階評価の例が紹介された。

1.やったことがない
2.指示があればできる
3.一人でできる
4.教えることができる
5.改善できる

中野講師は「できることとできないことが分かると、モチベーション向上につながる。一見、やる気がないように見える社員でも、その状態を放置せず、『見える化』することでモチベーションを上げることができる」と話した。

■「上司が悪い」では解決しない

問題点を挙げていくと、つい組織や人のせいにしてしまいそうなことがある。

だが、古谷講師は「『上司や組織、あるいはスタッフが悪い』と結論付けては、問題の解決にならない。実際にそうした場合もあるかもしれないが、真の原因(要因)はどこにあるのか、本質を探らなければならない」と指摘する。

さらに、「こうしていれば良かったのに」という考え方も避ける必要がある。すでに起きている問題に対して、要因を探り、対策することが重要だからだ。

テーマ選定のワークショップを終えて、参加したNPOからは「ミッションが整理でき、スタートラインが見えてきた」「問題は何か、気付くことができた。テーマ選定の重要性が実感できた」といった声が上がった。

次回(第3回)のカイケツは6月21日に開催される。問題を解決するための2つめのステップ「現状把握」を行う。

<トヨタ自動車の「問題解決」の8ステップ>

1.テーマ選定:
解決すべき対象を決める。問題の重要性、問題が拡大傾向にあるか、問題の影響の大きさなど様々な観点から何を解決すべきか判断する。経営者の重要な役割。

2.現状把握:
現状の姿を客観的かつ定量的に認識すること。事実・データに基づいて伝えることがポイント。

3.目標設定:
何を、いつまでに、どのようにするのかを具体的に決める。マイルストーンを置いて、取り組みの経過を可視化する。

4.要因解析:
なぜを繰り返して、真因を探る。なぜを繰り返すことで、具体的な実施事項が出てくるので、論理的、合理的な解決策が期待できる。

5.対策立案:
対策内容を整理して、実行計画を立てる。5W1Hを明確にして、最も効果的と思われる対策案から手掛けていく。

6.対策実行:
計画通りにやりきることが大切。

7.効果確認:
対策内容への評価を行う。「対策をほとんど実施し、期待通りの成果が出た」「対策はほとんど実施したが、成果は得られなかった」、「対策はほとんど実施しなかったが、期待通りの成果が得られた」、「対策はほとんど実施せず、成果も得られなかった」の4つのパターンが考えられる。

8.標準化と管理の定着:
効果が出た対策の内容を標準化して、その後の取り組みに反映させていく。こうすることで、同じ問題の再発を防いでいく。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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