ダイバーシティの推進を目的に、学内に専門機関を持つ筑波大学は、電通と共同開発したエクステンション講座を今秋から開講する。今後、同分野で日本初の学位取得過程設置を目指す。それに先駆け29日に行われた公開シンポジウムでは、ロボットスーツ「HAL医療用」の開発者として知られる同大学の山海嘉之教授のほか、学術・実業界の双方で活躍するパネリストが登壇し、改めてダイバーシティとは何かを議論した。(寺町幸枝)
■電通の知見を学問に活かす
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を目前に、社会の多様性の必要性が高まるなか、学問としての「ダイバーシティ」や「インクルージョン」が注目されている。創立以来、スポーツを通じてこの分野で先駆的な研究を行っている筑波大学は、このほど電通と連携協定を結び、「ダイバーシティ&インクルージョン」を学問として確率させ、より一般的な浸透を促すことを目指す。
「電通ダイバシティー・ラボ」を2012年に設立以来、企業としてこの分野に関して積極的な導入や調査を行ってきた電通には、よりリアルな情報と知見が蓄積されている。筑波大は、電通と連携することで、「Chief Diversity Officer 」(COD)人材の育成や、学位取得が可能な専門教育課程の設置を視野に入れる。
公開シンポジウム「ダイバーシティで未来をえがく」には、学生からシニアまで、数百人で会場が埋め尽くされた。
サイバーダインCEOでもある山海嘉之教授は、「HAL医療用」を発明、ビジネス化したことで知られているが、本シンポジウムでは、HAL医療用を利用している患者の事例を紹介。HALが多くの人の身体的不自由さを克服できる可能性がある、ということを示した。
だがそれ以上に、HALを装着し障がいを克服できる事実が、本人だけでなく、周囲にいる家族や仲間のメンタルに大きな影響を及ぼし、前向きに生きる力になっていることが、多くの事例で見られたという。
「ダイバーシティとは、(多様な人たちと一緒に働くことを通じて)実は当たり前のこと、気付かなかったことに気付けること。それこそが(オリンピックやパラリンピックを)主催する側が提供できる価値なのではないか」。平昌2018 パラリンピック日本選手団の団長を務めた、大日方邦子氏の言葉もダイバーシティの良い面を裏づける。
さらに企業側として登壇したビザ・ワールドワイド・ジャパンの安渕聖司社長は、「ダイバーシティ&インクルージョンは、ビジネス競争力の源泉であり、イノベーションや新しいアイデアの源泉だ」と断言しており、今後企業においてこの分野での積極的な取り組みが、企業価値を高める重要な位置付けになっていくに違いない。
筑波大学のエクステンション講座は、産官学協働の拠点として同大学提供する教育プログラム。学内にある筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター)が中心となり、この秋にダイバーシティ分野で2つの講座が開講される。
学生向けの「障害者スポーツボランティア・リーダー養成講座」は9月12日、11月18日の計2日間、社会人向け「ダイバーシティ&インクルージョン集中講座」は10月から5日間開講される。
いずれもボランティアやダイバーシティ・マネジメントを中心に、多岐にわたるテーマに触れる予定だという。