「志」を求める若者たち(3) 日本の農業に一生を賭ける!

「日本の農業に一生を賭ける!学生委員会」(Spend Our Lifetimes for Agriculture、略称SOLA=そら)。その名前から、彼らの意気込みが伝わってくる。ここまで農業に思い入れがある学生がいると聞けば、日本の農業関係者は頼もしく思うことだろう。何が彼らを動かしているのか。(聞き手:森 摂)

SOLA:日本の農業に一緒を賭ける!学生委員会

  • 白鳥幹久(東京大学経済学部経済学科4年)
  • 吉田芳夏(東京家政大学家政学部栄養学科3年)
  • 加藤史彬(東京大学大学院農学生命科学研究科修士2年)
  • 神保正樹(日本大学生物資源科学部食品経済学科4年)

本誌オルタナ9号P69からの続き

森: 皆さんSOLAでこれだけはやりたいことってありますか。

白鳥: 農業の新しい形を提案したいですね。
環境やビジネスや教育を農業とつなげていきたい。コンセプトカーみたいに、アイデアベースで未来を先取りした農業のあり方を実際につくってみたいと思って います。

吉田: 私は、カフェを作りたいです。素材にこめられた思いが伝わる料理法を追求することで、生産者やお客さんをはじめ、いろんな人が繋 がるカフェを作りたいし、そんな場づくりを目指していきたいです。

吉田: 以前は、綺麗にラッピングされているニンジンが愛情を持って育てられたものと思っていました。でも実際に現場を見て、本当のとこ ろをもっと知るべきだと感じました。そういう発見をもっと消費者に伝えたい。そういう場としてのお店を作りたい。
自分は素材あってのカフェ。このメニューがあってレシピがあって素材を集めるってことはしたくない。素材があるから、この料理法が一番この素材のためにな るからとか。その思いを喜んでくれる生産者の人と繋がれるようなカフェ。

森: それを東京につくるってこと?

吉田: そこはまだ迷っています。

森: 素晴らしいアイディアだと思う。ぜひ頑張ってください。それは何年後くらいにつくるの?

吉田: すぐにできますか。

白鳥・神保: すぐできるよ。本郷通りのシャッターが閉まっているお店がたくさんあるから、あそこならいけるかもしれない。

森: 古い建物のほうがいいと思う。雑居ビルでコンクリートのところに入ってもしょうがないから。どこかで一軒家のほうが。農業を通じてかっこいいとか憧れを与えられたら、いちいち来てくれと頼まなくても皆が来てくれる。仲間も増えると思います。じゃあ加藤くんはどうですか。

加藤: 僕はやはり「侍カフェ」には期待しています。メンバーから出た新しいモノや仕組みを提案したいとか、農業で何かをしたい、カフェをやりたい といった考えが「侍カフェ」のコンセプトに詰まっている。日本食の良さというものを本当にいい野菜を使って提供していきたいです。
先ほど森さんが言った「カッコいいというイメージがあれば変わるんじゃないか」というところはまさに僕たちも戦略的に考えています。日本人の目だけではな く、海外の人の目からも「玄米御飯カッコいい」とか「自然食カッコいい」などと評価してもらえればな、と期待してます。

森: マクロビオティックって日本のものだものね。

加藤: そうなんですよ。日本人は、海外の人がカッコいいと言うとかっこいいんだと思ってくれるところが結構あると思います。そういったところから も、農業はカッコいいとか食料はカッコいいと思ってもらえるような一つの起点になるのではないかと。侍というのは日本のコンセプトであるので、侍というも のには外国人は興味を持ちますよね。

森: そうですね。

加藤: そういったところからも、幅広く、国も広がっていく。同時に野菜から地域にもつながってくる。そして、学生にも つながっていくといったところで、侍カフェというコンセプトが実現すれば、僕たちとしてもそこを利用して何かを情報発信する場としても利用できる。結構色 々な可能性を持っているんじゃないかなと期待しているんです。

森: 具体的には、海外とはどのようなつながりがあるの?

加藤: つい先日、イタリアの食科学大学の学生と交流会をする機会がありました。彼らも「ユースフードムーブメント」という取り組みをしていて、ま さに食を通じて様々なつながりを若い世代でつくっていこうと動き出している。海外とのつながりが生まれたので、また何か面白いことが出来るんじゃないかと 期待しています。

森: そもそも、SOLAは白鳥くんが一人で作ったのですか。

白鳥: 最初に作ろうと言い出したのは僕です。加藤さんとは「アジア開発学生会議(ADYF)」という学生団体で以前から知り合いでした。彼は農学部の学生。僕は経済学部ですが、農業に関心を持っていたので仲良くなったのです。

森: 白鳥くんが農業に関心を持つようになってきっかけは何ですか。

白鳥: 僕は宮城県出身で、祖父が農業をやっていました。農村風景が身近だったんです。ですが、大学入学当初は「開発」がやりたくて、先 ほどのサークルに入ったのです。

森: 「開発」とはどういう意味ですか。

白鳥: 途上国開発ですね。人の役に立つ、大きなことをしたかったのです。発展途上国で活動し、発展を目の当たりにすることに魅力を感じ ていました。そのサークルでは06年の夏にベトナムに行くプロジェクトがあり、参加したのですが、実際に現地の開発機関の話を聞き、そこで「自分の考えと はちょっと違うな」と感じました。

森: どこがどう違ったのですか。

白鳥: おそらくは、彼らは楽しいからやっているのですね。日本が豊かな国だから世界のために貢献せねばではなく、ベトナムが好きだからやってい る。彼らは楽しい。それは自分とは違うと思いました。

森: もっと苦しまなければならないということですか。

白鳥: いやそういうわけではなく、自分にとって「楽しめる」ものではない、と感じたということです。それと、実際には途上国には困っている人は少 ないのではないかと思った。不便な生活の中でも生き生きと活動しているし、その「不便」もあくまで自分の視点なわけで、自分が入り込める領域ではない。も し入ったら責任をもたなければいけない。その国を変えるということは、その国に住んで一生暮らすぐらいではないと関われないと感じました。
一方、日本は日本語が使えるし(笑)、自然に愛着が持てて、住み続ければ責任も持てる気がした。日本は、僕たち自身が問題解決しないと、海外からやってき て誰かが解決してくれることはありえない。では日本の問題はと考えたところ、そういえば自分は地方の出身だったことに気が付いたんです。
ベトナムには田んぼがあり、地元と風景が似ているんですね。そのとき、日本の農村はどうなるのかなぁと思いました。自分の育った環境を置き去りにして、海 外で働くのは本当にいいことなのかと。
それで日本に戻ってきて農業関係の本を読みあさるうちに、この問題は根深いなと感じ、何となくピンときたんです。たまたまそのサークルの中で加藤くんが日 本の農業について勉強していて、興味を持っていた。せっかくやるんだったらトコトンやりたいし、それにはやっぱり勉強も必要だけど、実際に活動することが 大事だと思って、このサークルを作ったのです。

森: そこで加藤くんに相談したわけですね。加藤くんは最初にこの話を聞いた時どう思いましたか。

加藤: 非常に面白いなと思いました。私も専門分野は農業なので、できる限り協力していきたいし、何か面白いことができるという予感もしました。そ して今に至ります。

森: いま4年生だけど、就職先は決まったのですか。

白鳥: 僕と加藤は農水省に内々定をもらっています。

森: 加藤くんもですか。

加藤: 僕は農業経済の技術系採用で、白鳥は事務系です。

森: 農水省に入ると農業は守れないかもしれない。減反政策や自給率の話もそうだけど、これまで日本の農業をつくってきたのは農水省。その本丸に飛び込んで、日本の農業が変えられるのかな。

白鳥: 「変えられる」と思っているから行くのです。無理だったら出るしかありません。人に聞いても分からない。自分で経験しないと。いろいろ就職 活動で回ってみましたが、やっぱり将来のことをきちんと考えて、本当に「一生を賭けて」取り組んでいる人がいて、自分も取り組めそうなのは農水省しかない と希望しました。

森: 農水省で日本の農業を変えたいということですね。

白鳥: 空気を読みながら、ですが(笑)。

加藤: まずは組織を知ってから動き出すのが大切であると思います。海で例えるならば、消費者や農業者など様々な船がありますが、全体の海図を描くのが役 所=農林水産省です。色々と問題や限界があるでしょうが、長期的な視点で物事を考え、政策に携わって長い視点で農業に寄与できればと考えています。

森: 日本の農業政策の中心に飛び込むわけだけど、そこで自分が埋没してしまう不安はないですか。

加藤: 逆に、そこが僕たちの団体の強みなのです。僕たちが卒業後もつながっていくことで、そこで食と農に興味のある学生たちと付き合いを続けてい くことで、やはり何か変えなきゃという気持ちを持ち続けられると思います。

森: SOLAの顧問である、生源寺教授(東大農学部)は加藤くんの指導教官ですか。

加藤: そうです。政府の審議会に出ている人であり、長期的な視点で日本の農業にはどういう政策が良いかを考えている方です。

森: 生源寺先生に顧問になって下さいと頼みに行ったのですか。

加藤: そうです。メンバー3人で行きました。

森: 先生はどういうリアクションだったのですか。。

加藤: 「若者から動き出す」ことは非常に素晴らしいことだと思うので、協力は出来るだけしたいと仰って頂きました。

白鳥: 『今、自分たちが日本の農業の中核を担う人材となり、農業が持つ魅力を探求し、それを時代を担う幅広い世代に発信することで、と もに世界に誇れる美しい農業を持った日本社会を実現する』という団体理念を紙に書いて持っていったら、3秒くらいで「そういう理念だったら良いよ」と言わ れて懐の深さを感じましたね。

森: 39%という日本の食料自給率を上げるためにはどうすれば良いと思いますか。

白鳥: 皆が国産の野菜をなるべく食べる。生産者もコメ以外に作れるのを増やすことではないでしょうか。

森: 消費者に食べろとなかなか押しつけることはできないし、ぼくもオーガニックの取材をやったけど、ちょっと高いとすぐに消費者は離れてしま う。いろんな問題があって、なかなか量がそろわない形が不ぞろいとか、みんないいと思えば食べるけど、ぼくはまだまだ日本の消費者は遅れていると思う。だからそれを啓蒙してあげなければいけないよね。

加藤: やはり消費者も変わらなければいけないと思います。今の状況ではどんなに国や企業が頑張っても今の消費者の嗜好では、自給率は上がらない し、日本の農業は明るくならない。それは次代を担う若者を中心に幅広い世代の人たちが、農業の在り方や食料の在り方を考え直し、行動を変えることではない でしょうか。

森: 今の日本の消費者の嗜好では日本の農業は伸びないと言ったけど、それは具体的にはどういうことですか。

加藤: たとえば、必要以上に規格に厳しかったりします。この間、ある農場で面白い話を聞いたのですが、トウモロコシを出荷する時に、先端の食べな い所まで実が詰まっていないと規格から外れることがあるそうです。これは一例ですが、規格が必要以上に厳しいために、圃場での廃棄や収穫の作業のコストを 増やしているのではないかと思います。

森: それは買い取る側が悪いと思います。

加藤: でも、それは買わない消費者がいるからです。こうしたことを伝えるのも大事だと思います。

白鳥: そのお話に補足すると、今の社会構造にも問題があります。忙しく、ご飯をつくる時間があれば少しでも働くという人も増えているそうですね。 帰りに野菜を買って自宅で調理して食べるのではなくて、お惣菜を買って食べる。料理をする人が減っているそうです。そうすると野菜の味や旬や産地に気を配 らなくなりますよね。

森: 日本の消費者は、オーガニックとか農薬とかについての知識は他の先進国に比べて遅れていると思いますが。

加藤: 「安全」と「安心」が乖離しすぎているのではないかと思います。安全よりも安心感を追い求め、昨今何が安心なのかがよくわからない状況に なっているのが今の日本の現状ではないかと僕は思っています。

森: もっと安全のことを考えましょうということですね。

加藤: そうですね。そしてそれを義務として押しつけるというよりは、もっと興味を持ってもらう。楽しむところから、食に興味をもってもらいたい。 先ほどのトウモロコシの話でも、知ればみんな買うじゃないですか。つながりづくり、きっかけづくりを若い人からできればと思います。

森: 今の安全とか安心を含めて、日本の消費者の傾向も含めて思うところがありますか。

神保: 本当のことを自分で確かめはしないのに、国とかが安心だと言ったものをすんなり受け入れ過ぎだと思います。

森: それは規格とか認証とかのことですか。

神保: そうです。

森: 都市と農村の距離も遠いですよね。

加藤: そうですね。。

森: 皆さんの出身はどこですか

白鳥: 宮城県の仙台市です。本家は栗原市の築館町のコメ農家ですね。
神保: 神奈川の相模湖です
吉田: 福島の南会津です。
加藤: 僕も福島のいわき市です。おじいさんは漁師で、親戚のおじさんはコメを作っていました。

森: 白鳥くんも加藤くんも来年の春に卒業するわけで、そうなると後輩たちを育てなければいけない。

白鳥: そうなんですよ。毎日必死にそればっかり考えています。とりあえずゼミの後輩を何人かイベントに来てもらって、就職の内定者を紹介したり、 地道に勧誘しています。

森: 今実動のメンバーはどれくらいですか。

神保: 10人くらいです。

森: いろんな人を勧誘してみて、今の学生たちの反応はどうですか。なかなかピンとこない人もいると思うけど。

白鳥: 刺さる人は刺さる。でも人によります。

森: 10人に声を掛けて、乗ってくる人は何人くらい? 全然乗ってこない人は何人くらいですか。

神保: みんなある程度興味を持ってくれて、イベントにも来たいと言ってくれるんですが、でも入るって人は1人いるかいないか。

加藤: SOLAは多分野の学生と言うのが強みでもあり弱みでもあるんです。強みとしては同じ問題をいろんな視点から見られる。弱みとしてはどこかの大学 に所属していないので、例えば新歓をやるにしても広報するのが難しいです。

加藤: 僕たちはある程度専門的な農業を目指しているので、専門課程の学生になってしまうと、やっぱりそれこそ吉田さんみたいに授業 の実験で忙しかったり、僕も論文書くのに忙しかったり、そういう学生が多いので、興味はもってもなかなか参加は大変だなと言う学生が多いです。

森: 最近有望な人が入ってきたりしましたか。

神保: 農大の一年生が入ってきました。鵜澤佳史くんです。東京農大で国際農業開発学を専攻しています。

森: すごくやる気ありそうですか。

白鳥: やる気満々ですよ。そういうやる気のある人が入る一方、うちのサークルは名前がやる気に満ちているので、見えない参入障壁があるというのも 事実ですね(笑)。

森: ただし、それにひかれて入ってくる学生もいるんだよね。だから良い名前を付けたんだよ。

白鳥: この団体はもともとmixiのコミュティで初めに告知して人を集めたので、目を引くmixiのコミュニティ名を考えなければいけない。それ でそういう熱くて短いのが良いなと名づけたんです。

森: SOLAが始まってから一年半が経ちました。

加藤: それこそ手探り結構やってきたことがあって、プロジェクトも3カ月単位で区切ってやってきました。割と入れ込んでいたりもするので、その中 で興味を持ってくれた人が入ると言った形なので、具体的な年次計画はありません。一年半やってきたが、その辺もサイクルとして回していかなければならない のが現状の課題ではあります。

森: いずれにしても来年くらいには二期になるのかな。二期の代表を決めなきゃいけないと。

白鳥: そうですね。

森: それは例えば神保くんがやるとか。

神保: 私も4年です。

森: そうなるとかなりゴソっと抜けることになるよね。せっかくオルタナで掲載しても、無くなりましただと困ります(笑)。

白鳥: 僕たちのサークルは一生なので、社会人になっても組織自体はちゃんと回していきますよ。ご心配なく。

森: 今後、どんな人に入って欲しいですか。

白鳥: やっぱり農業に一生を賭けたい人です。でも、就職に役に立つというか、そういう面白い活動をしていてネタになるとか、そういうレベルでも、 入っていく中で面白みに気付いてくれればいいと思っています。

森: 10人のうち男女比はどうですか。

神保: 7対3くらいかな。

森: 男7女3くらいね。女の子はなかなか入りにくいですか。吉田さんみたいな存在は逆に珍しいのですか。

吉田: 珍しいわけではありません。自分の力を活かすためにここにいるので、男女とかは関係ないです。白鳥さんも料理できるし。そういう意味ではや れることをやりたい。別の女子学生のうち1人は私と同じ学年で、今、大学で小さい畑を一緒にやっていて、そういう食と農をつなげることに興味があります。

森: SOLAは割と農業と食は半々ずつってイメージがあります。

白鳥: 活動内容はそうですね。

森: それは、やはりそれぞれがともに大事であるからですか。

白鳥: 人に伝える時に、農業だけだとちょっと遠い。

森: 食はそこに食があれば、食べてもらえれば良いし、分かりやすいですね。今後も同じように農業と食は半々ずつ活動していきますか。

加藤: 農林水産省でも白書って、食料農業農村白書じゃないですか。食料と農業と農村は切っても切り離せないもので、何か一つで解決できるものでは ありません。今、農村の話で言えば、僕たちの「江戸風土システム」で神田の地域と関わりを持っている新潟の長岡市の農家から苗をもらい、指導してもらいま した。われわれのキーワードは「つながる農業」(agriconnecture)なので、そこを大事にしていきたいです。

森: 「つながる」とは都市と農村という意味ですか。

加藤: あらゆる階層です。子供と僕たちであるし、世代も超えるし地域も超える。川上から川下という産業間でも繋がる。いろんな繋がりから新しいも のが生まれるのではと思っています。

白鳥: 新しい農業の在り方みたいなものを。

森: ビジネスも含めてね。

白鳥: そうですね。SOLAがそれを提案できる媒体であり続けられたら素敵だなあと思っています。

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