論説コラム:社会起業家「新世代」の現在地

原田勝広
オルタナ論説委員
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先日、東京・神楽坂でおいしいスパゲティに出合った。島根県産の特別の牛乳を使っているというので、「ひょっとして州濱さんの牛乳?」と聞いたら大当たりだった。10年ほど前「イノベーションby社会起業家」というシリーズを日本経済新聞夕刊で連載した。取り上げた一人が自然放牧でヘルシーな牛乳を生産していた有限会社シックス・プロデュースの州濱正明青年だった。当時は流通ルートに乗らず苦労していたが、ついに東京に進出したんだと感慨深かった。

当時は、寄付やボランティアで社会貢献をするNPOやNGOが行き詰っていた時で、注目されたのがNPO的な使命感とビジネスセンスを合わせ持った社会起業家という存在だった。フローレンスの駒崎弘樹、マザーハウスの山口絵理子、カタリバの今村久美、かものはしプロジェクトの村田早耶香の各氏が代表格で、いわば社会起業家の第1世代。多くは事業型のNPOで、彼らは今も活躍しているが、ブームそのものは去ったように見える。

そんな折、東京で初の「JAPANソーシャルビジネスサミット」が開催されるというので足を運んでみた。会場は若者で埋まっていた。舞台には今風の社会起業家が続々と登場した。社会起業家は生きていたのだ、しかも格段にバージョンアップして。このサミットを主催したのが田口一成氏率いる株式会社ボーダレス・ジャパンで、実はここが最先端である。

ボーダレス・ジャパンの事業は多岐にわたり、それぞれが独立した企業体の形をとっており、いわば社会起業家のプラットフォームだ。主役はあくまで現場であり、ホールディングカンパニーとして23の企業を人材、資金、ノウハウでサポートする役割を担っている。国境だけでなく既成概念、社会常識、先入観など旧来の価値観を越えているという意味でもボーダレスである。

これまでの企業の基本が収益性、効率性であったのに対し、貧困、差別、環境など現代社会が抱える社会問題を解決することを理念としてうたっているのが特徴で、「SDGs時代」の申し子ともいえる。グループ企業は、解決しようとする社会問題を持っている事業リーダーが社長になるユニークな仕組みで、ボーダレス・ジャパンが最高3000万円の資金を提供、マーケットやマネジメントについての指導、支援を行う。スタートしたばかりの企業が多く、黒字はまだ11社だが、原則、18か月で黒字を目指すことになっている。

社会問題解決といっても簡単ではない。これまでと違うイノベーティブな視点が求められるからだ。 例えば人材紹介のボーダレスキャリアの場合、いじめや虐待を受けて育ったり、就活で失敗を重ねたりした結果、仕事につくことに前向きになれない若者にターゲットを絞っている。

「ステップ就職」という手順を踏むのが特徴で、まず半年程度、希望の企業で働き、現場の雰囲気を経験してもらう。そこで適性を判断し、よければ正社員に採用してもらうというやり方だ。「自己肯定感が乏しく、コミュニケーションもうまくない場合、就職試験に落ち続けると引きこもりになったり、女性だと風俗しか働き場所がない状況にまで追い込まれてしまう」と高橋大和社長。「若者に寄り添って、良さを引き出してあげるのがわれわれの仕事」。

この仕組みによって、貧困ビジネスで食い物にされ、人間不信に陥っていた若者や養護施設出身のフィリッピン人などが無事に就職することができた。

また難民が安心して働ける場所を作ろうという、難易度の高い社会的課題に挑戦しているのが青山明弘社長のピープルポートだ。政治的迫害などで故郷を後にした難民は日本に来ても言葉もできず、知り合いもいない。寝る場所さえなくホームレス状態になる人もいる。難民申請をしても認定までに何年もかかる。

そこで労働許可を得た段階で難民が働ける場所を用意するのだ。仕事の内容は、古くなったパソコン、携帯電話などを企業から無料で回収、これを修理して中古品として販売したり、分解して金、コバルト、レアメタルなどを資源として売ることで資金循環を生み出している。現在、カメルーンからの難民2人が働いている。売り上げの一部を子供支援の日本のNPOに寄付する点も目新しい。

ボーダレスグループの企業は海外でも事業を展開している。ミャンマーでは貧困削減のため価格保証をつけながらオーガニックのハーブティーを契約栽培し、それを母子のためのナチュラルケア・ブランドとして日本で販売。中米グアテマラでは、養鶏事業を展開しているが、現地の負担を減らすため初期投資はボーダレス側が行い、養鶏場の人には飼育とメインテナンスだけを行ってもらう工夫をしている。

グループ内での連携も図っている。文字の読めない現地の人を雇用しているバングラデシュの革製品メーカーとは別に、日本で障害者を職人として育成し財布など革製品をオーダーメイドで生産する企業などがあり複数で協力し合っている。

行政も大企業も、NGO、NPOも解決できないまま放置されてきたこうした課題に新しい仕組み、価値観でチャレンジいている社会起業家群。まだまだ発展途上だが、彼らが日本を変えようとしているのは間違いない。

(完)

原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍し日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門はCSR論、NGO・NPO論、社会起業家論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など多数。

2019年3月22日(金)10:45

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