農薬被害の仏農家、12年越しでモンサントに勝訴

フランスの控訴院(高等裁判所に相当)は4月11日、農薬大手モンサント(現・独バイエルの子会社)の農薬が農家に重い健康被害を与えたとして、訴訟費用50万ユーロ(6300万円)の支払いを命じた。この農家は2004年にモンサントの農薬使用時に重い後遺症が残り、2007年に提訴していた。賠償金額は未定。(パリ=羽生のり子)

左からラファルグ弁護士、フランソワ氏

訴えていたのは仏南西部シャラント県の穀物農家、ポール・フランソワ氏(55)。2004年、モンサントの除草剤「ラッソ」の蓋を開けた時に出た蒸気を吸い込み、意識不明になり、長期の入院を強いられた。

その後も神経系の損傷によって仕事や生活に支障が出たため、2007年に提訴した。「ラッソ」は1985年にカナダで、1992年にイギリスとベルギーで禁止になっていたが、フランスでは2007年に禁止された。

2012年の裁判で勝訴したが、モンサントが控訴したため、2015年にリヨンの控訴院(高等裁判所に相当)で2回目の裁判があった。

この時も勝訴したが、モンサントが破棄院(最高裁判所に相当)に控訴した。破棄院は前回の判決を「製品の欠陥に基づいていない」として破棄し、裁判の差し戻しを命じた。

そのため再度、控訴院で審議し、製品の「取り扱い注意」の記述が不十分だったことを指摘した今回の判決が出た。

判決直後、フランソワ氏とともにパリで記者会見をしたフランソワ・ラフォルグ弁護士は「控訴院は『フランソワ氏の使い方が悪かった』というモンサント側の主張を全て否定した。歴史的な勝利だ」と喜びをあらわにした。

フランソワ氏は12年に渡る裁判期間中に「農薬被害者の会」を設立し、2015年に有機農業に転換した。同氏は、「大きな代償を払った闘いだった」と感極まった様子で語った。

「農薬による健康被害を話すことは農家にとってタブー。病気になっても、取り扱い方が悪かったと自分を責める。この勝利で農家は考えを変えてほしい」と同業者に訴えた。

ラフォルグ弁護士は、モンサントが控訴しても、すでに破棄院の要求を満たした控訴院がモンサントの主張を却下しているので、判決が逆転する可能性は少ないが、控訴することで賠償金支払いを引き延ばす作戦に出るのではないかと予想する。モンサントは判決日から2ヶ月以内に控訴することができる。

控訴院はモンサントにフランソワ氏の訴訟費用50万ユーロ(6300万円)の支払いを言い渡した。賠償金額は言い渡さなかった。フランソワ氏とモンサントが6月29日までに賠償金額を大審裁判所(訴額1万ユーロ(126万円)を超える民事事件を扱う裁判所)に提示し、裁判所が金額を言い渡すことになっている。ラフォルグ弁護士は、要求する賠償額は100万ユーロ(1億2千6百万円)を少し上回る金額になるだろうと言う。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..