論説コラム:日本の女性起業家はしなやかにアフリカを目指す

その女性社会起業家の視野は今やアフリカにまで広がってきた。萩生田さんはカリフォルニア州立大学で模擬国連に参加、世界の貧困に触れた影響が大きい。帰国してエーザイに就職。同社がWHOと提携してリンパ系フィラリア症の薬をアフリカ向けに提供していたことで、いつかはアフリカへという思いが再燃、退職してNGOスタッフとしてケニアへ赴任する。

小学校を建設するNGOだったが、訪問先の校長から「何をくれる?」と言われ、援助慣れした現地に落胆する。自分たちで働いて豊かになろうとせず、「豊かになったらNGOが来てくれいない」と考える彼らを前に、援助ではなく起業して雇用を作ろうと決意する。ケニアには素晴らしいバラがあった。ネットや企業向けに月に5,000本を売るまでになった。契約先のバラ園で働く従業員は当初の150人から今2,000人に増えた。ケニアに幸福をもたらす、このバラを買う人のプロポーズの成功率は100%だという逸話もある。

「8年後に売上規模を10億円にしたい。また、将来はケニアでバラ園を経営して新しい品種を開発、その花の命名権をとるのが夢」と萩生田さん。「バラを贈るのは花をツールにして恋人、夫婦、友だちがうまくコミュニケーションをとれる、そんな豊かな日本をつくりたいから。もらったバラに自分の名前があったら、うれしいでしょう」。

もうひとり、売り出し中の社会起業家がいる。アフリカン・プリントに着目したRICCI EVERYDAY(リッチー・エブリデー)社長の仲本千津さんだ。一橋大学大学院時代に、アフリカの飢餓に苦しむ子どもたちを支援するTFT(テーブル・フォー・ツー)でインターンを経験し、ビジネスツールを使い企業を巻き込む重要性を学んだ。卒業後は銀行員になるが、東日本大震災の時「思いがけなく人生が終わることもある。今行動しないと」と退職、アフリカで農業支援をしていたNGOに入りウガンダへ。

国連や大手NGOは農業研修を行う時、日当を出す。現地の人はそれが目的で受講する。だからお金を出さない研修だと、内容がすばらしくても誰も来ない。「こんな支援は現地のためにならない。自立して働くことで持続可能な成長にしないと」とビジネス探しを始めた。市場で発見したのがアフリカン・プリントだ。水の波、ツバメ、扇風機などの独特の柄、文様が赤、青、緑など鮮やかな色に彩られたプリント地の反物が天井までうずたかく積まれ店内はお花畑のようだ。

3人のシングルマザーを雇ってバッグのサンプルづくりからスタート、2015年、出身地の静岡のデパートのイベントに出品したところ瞬く間に完売、ネットでも大人気だ。日本でこれほど売れる理由について、仲本さんは「まずバッグの中にポーチが入っていて使いやすいというデザインのよさ。ウガンダで、社会的に疎外されている元子ども兵などが制作にかかわっていることも評価されている。とにかく珍しくてかわいいので、持っていると声をかけられて褒められるのでコミュニケーションが活発になる」と分析する。

5月に東京・代官山に初の直営店をオープンする一方で、オンラインで洋服も手がける。ウガンダの仕立屋と世界中の消費者を結び、好みのデザインや布、サイズで注文に応じてオリジナルを生産する「洋服のオンライン・カスタムメード・プラットフォーム」を構築するのだ。現地法人は発足したばかりでまだ従業員は18人だが、当面、売上高1億円を目指しており、さらなる雇用拡大を図る一方、農薬や化学薬品の浄化、縫製工場の劣悪な労働環境の改善などファッション業界の環境課題にも取り組む考えだ。

アフリカの社会的課題に挑戦し、日本との距離を縮めた彼女たちの生き方に共感が広がっている。

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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