岡田武史さんの環境論「大変なのは地球ではなく人間」

サッカー日本代表前監督の岡田武史さんは学生時代に『成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート』(ドネラ H.メドウズ 著)を読んで以来、環境問題に深い関心を持ってきた。

気候変動の問題については「地球環境の問題というより、むしろ人間そのものの問題」という独自の視点を持つ。日本代表監督の退任後は、サッカーと環境教育に半々で携わっていきたいという。オルタナ最新21号(9月末発売)の巻頭インタビューから一部をご紹介する。

写真=「淘汰されない人間を育てたい」と語る岡田武史氏(撮影 鈴木裕介、衣装協力 ピープル・ツリー)。

――前号に登場したレスター・ブラウンさんは「風力や太陽光は米国や欧州が先行し、日本は遅れをとったけれど、地熱であればナンバー1になれる」と主張していました。

いや、太陽光パネルは、そんなに遅れていないですよ。技術はありますから。

─―日本が遅れた原因は、政策ですね。岡田さんはその辺りに詳しいとお伺いしています。

僕がやっている任意団体が、再生可能エネルギーを増やすための政策提言をしています。

─―GEINですね。環境問題についてはどうお考えですか。

地球環境が大変だといっても、実は地球はまったく平気で、人間が大変なだけです。地球というのは誕生以来、どんどん変化していくもので、それに適応していくのが、僕ら生物なのです。

しかし、この200年、地球の気候変動が急激になったために人間社会が適応しづらくなった。それをスローダウンさせる活動が一般的に環境活動と言われています。僕はそれも大切だと思いますが、逆に、人間や社会が地球環境の変化に適応していくのも、立派な環境活動だと思います。

中でも僕は、「環境変化に適応できる人間を育てる」活動をしたい。今の日本人は、こんなに便利・快適・安全な暮らしに慣れきって、一番に絶滅するのではないかと危惧しています。「生きる力」が弱い。だからそこをやりたいのです。

─―環境変化に適応できる人材づくりとは、子ども向けですか。

メインは、自己責任のとれる高校生以上を考えています。でも夏休みにスポットで、子ども向けもやりたい。まだ構想の最中です。自分たちで企画して、自分たちで乗り越えていく実習。こちらから与えるのではなく、です。

─―地球環境の変化に耐えうるために、ヒトや社会の方を変えるということですね。

1900年に15億だった人口が1950年に倍になって30億、2000年に60億、もう68億を超えようとしている。人口がどんどん増えているが、地球は大きくなれるわけではない。誰が考えても「行く末」が分かる。

その先には、ある程度の「生物の淘汰」が来るかもしれない。その時に、日本人は一番に絶滅してしまうのではないか。そのためにも、適応できる日本人を作って行かなければなりません。

─―「絶滅を待つ」のではなく、地球環境と共生しながら、未来を築くのですね。

そうです。ネガティブではありません。でも、きれいごとばかりで「絶対うまくいくんだ」ではなく。僕はサッカーの監督で心配性だから、最悪のことをいろいろ想定して、そういうときにどう手を打つかと考えるのです。

─―それは経営者も同じです。

そうですか。やはり最悪を想定して、手を打ち、できるようにするのが普通です。最悪の事態に耐えられたら、後は何とかできます。いま日本では3万人も自殺し、9万人もが行方不明になるという、異常な社会です。これは「生きる力」が落ちているのです。

それは若い人たちが悪いのではない、僕らがつくった、「豊かだと思った社会」が、実はとんでもなく人をスポイルする社会だった。我々は、豊かさに耐える遺伝子をまだ持っていないのです。

一方で、ヒトは氷河期や飢餓期を超えてきた「強い遺伝子」は持っている。でも、まだスイッチが入っていない。だからそういうスイッチを入れてやるようなことが、僕の役割だと思います。(オルタナ編集部)

=この続きはオルタナ本誌でお読み下さい。購入はこちらから=

岡田武史氏プロフィール

(おかだ・たけし)サッカー日本代表前監督。1956年、大阪生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、古河電工サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団。98年仏W杯で日本代表監督を務めたのち、99─01年コンサドーレ札幌監督、03─06年横浜F・マリノス監督を歴任。2010年南アW杯で再び日本代表監督を務める。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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