バイオマスの大規模利用という「誤謬」

■緊急連載:バイオマス発電の限界と可能性(下)

日本で稼働が始まった3カ所のパーム油発電所では、一部で油の流出事故や騒音、異臭の問題が起き始めた。「バイオマス」という名前は自然由来で聞こえは良いが、国内外でさまざまな悪影響が出ている。もともとバイオマスは生態系上に薄く広く存在しており、それを一カ所で大規模に利用すること自体に無理がありそうだ。(編集委員・栗岡理子)

稼働中の三恵福知山バイオマス発電所(地球・人間環境フォーラム提供)

「三恵福知山バイオマス発電所」(京都府福知山市)は、市内でレジャー施設などを展開する三恵観光が2017年から運営するパーム油発電所だ。稼働直後から、稼働音や臭いについて住民が苦情を訴え、窓を開けられない、寝られないなどの声が聞かれる。

2019年2月には、発電燃料のパーム油が漏れ出し、住宅街に流出するという事故も発生した。住宅地の下水管や側溝などに流入した油は、白く固まり、流れなくなったという。

現地を訪問した一般財団法人人間・環境フォーラム企画調査部の飯沼佐代子氏は「電気利用者に支えられているFITの再生可能エネルギーは、地域振興と持続可能性に役立つものであるべき。地域住民に公害被害を及ぼしている発電所は、FITの対象として適切とは考えられない」と指摘する。

■まずFIT基準の見直しを

日本は、森林率(国土の内森林が占める割合)が66%と世界でも有数の森林資源を有し、木質バイオマス発電には十分なポテンシャルがあるといえる。しかし、日本の木材生産量は海外に比べて少ない。

10年前の日本の木材自給率は25%程度で、低いとされる食糧自給率(39%)よりさらに低かった。その後、当時の民主党政権が木材自給率の倍増を打ち出し、自治体でも地元産の木で家を建てると助成金を支給するなどの取り組みが始まり、2017年には36.1%まで上がってきた。それでも先進各国と比べて決して高いとはいえない。

木材自給率が低いということは、製材用に主伐される木が少ないということであり、そうであればおそらく林地残材も少ないだろう。間伐(森林保全のため、密集した立木を間引く)も進まず、間伐材の量も安定しない可能性が高い。

要するに、現行FIT制度の下でのバイオマス発電の燃料は、国内調達よりも外国からパーム油などを持ってくる方が何かと都合がよい。それも理由の1つとなって、現在のような結果を招いたと思われる。

しかし、それではせっかく国民から徴収した「再エネ賦課金」が、温暖化対策どころか、むしろ地球を破滅に追いやる方向で使われることになる。放射能で汚染された木や、外国から持ってくる燃料が使えなくなるような要綱を加え、至急FIT基準を見直す必要があるだろう。

そのためには、先般複数の環境団体が共同で提言した意見書の他に、WWFが5月に出した「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー」なども参考になる。

■里山資源を活用した小規模発電のメリット

環境にやさしい暮らしを考える

栗岡 理子(編集委員)

1980年代からごみ問題に関心をもち、活動しています。子育て一段落後、持続可能な暮らしを研究するため、大学院修士課程に進学。2018年3月博士課程修了(経済学)。専門は環境経済学です。執筆記事一覧

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