ウガンダやケニアでは、HIV/AIDSによって親を失ったエイズ孤児の直面する差別などの惨状を改 善するために生活苦を抱えて活動している現地の若者がいる。彼らとともに活動を展開するNGO「PLAS(プラス)」の3年間の活動とは。(聞き手・ 今一生)
- 加藤 琢真 PLAS代表、発起人。研修医として長野の病院に勤務。
来年には小児科医として東京の慶応病院で勤務予定- 門田 瑠衣子 PLAS事務局長、理事(専従職員)
- 大島 陸 PLAS理事(ボランティア、医学部受験勉強中)
- 服部 薫 PLAS理事 千葉大学法経学部4年生
- 大谷 仁美 PLAS理事 東京大学大学院新領域創成科学研究科2年
本誌オルタナ11号 p47からの続き
――なぜアフリカで活動を始めようと思ったのですか。
加藤 差別の撤廃、感染防止のための情報や教育が必要だという点で、HIV問題の解決にはやりがいを感じていました。国内、国外 関係なく、何かやってみたいという思いで、HIVの現状を見ようとウガンダに向かったのです。ある程度事前に勉強していったので、初めは映像で見ているの と同じだな、と感じました。そんななか、大人だけでなく、エイズ孤児たちも同じように差別を受けているという現状を知り、衝撃を受けました。 5年生になってアフリカに行くまでは、アフリカで医療制度にはかかわることができるかもしれないが、おそらく直接自分の医療技術を施すことはできないだろ う、自分自身、医師としてその地域でやれることはないのではないか、と考えていました。そうであれば、やはり日本で仕事をしていた方がいいかな、そういう 気持ちが強かったんです。しかし、最終的には、アフリカで少しでも自分が携われることがあったらやってみたい、という気持ちに変わりました。PLAS設立 の一番のきっかけになったのは、その現状を変えたいと思っている現地の若者に出会ったことです 。
――HIV啓発のためのワークショップの成果はありましたか。
門田 最初は普通の市民、大人300人くらいが参加しました。規模は違えど、そういったワークショップを年に3、4回、多い時で5、6回開催して います。 ワークショップをする場合、参加する人は、字が書けない人が多く、メモすることができません。絵で見せたり、演劇をしたり、工夫していますが、自分が心に 残したいことを字に残すことができなくて、何回もやらないとすぐに忘れてしまいます。 ワークショップでは、大きい模造紙に絵や図を書いて説明します。劇は「エイズ孤児がいて、こういう風にいじめてしまいました」といった、バッドエンディン グで終わらせることが多いです。その後にファシリテーターが「こういう風景を地域で見たことがありませんか?こういうのをみてどう思いますが?」という風 に話をしていきます。 また、子どもたちが「エイズクラブ」という集まりを作って、親を亡くした時の悲しみを詩にして発表するワークショップもあります。そういったプロジェクト に手を貸して、子どもたちを癒す機会を作るのも私たちの役割だと考えています 。
――学校運営の補助を行って、彼らは自立することができましたか。
門田 もともと現地の学校では、帳簿すら付けていませんでした。どうして帳簿を付けるのか、どうしてレシートが必要なのかということを説明するこ とから始めたのです。毎日使った金額をノートに記し、年間どのくらいの学費が必要かはっきりさせました。 ウガンダ人の人たちが自分たちでやっていかないといけないんだということに気付き、1年位掛かってようやく会計をつけるということが定着してきたんです。 彼ら自身で運営できる状態になったので、現在私たちは資金の提供をしていません。もともと学校自体は彼らが始めたことなので、彼らに任せています 。
――仕組みが変わっていかなければ、差別はなくなっていかないですよね。現地に駐在している谷澤明日香さんは何をしているのですか。
門田 主にもう一つのウガンダの事業であるルウェロ事業を進めていて、建設やエイズ啓発事業などの事業全体のマネージメントや現地調査を行っています。
――現地には多くの支援団体がいると思いますが、足りていないのですか。
加藤 足りていないと思います。
――里親制度はあるのですか。
加藤 はい。社会倫理的にエイズ孤児を引き受けなければいけないという意識はあるのですが、エイズに対する偏見があるのが現状です。
――政府に訴えかけたりはしないのですか。
加藤 そうですね。そこまではまだやっていません。
――あるいは向こうで出版するとか。知識層は政治と絡んでいるでしょう。メディアは利用できますよね。
加藤 国営テレビや国営ラジオでワークショップを宣伝しました。
門田 あとは民放のラジオ局も。
――それはいつの話ですか。
門田 06年夏です。
加藤 宣伝したのはHIV予防啓発ワークショップです。
――それはニュースバリューがありますね。広報のために、メディアを使ってマイノリティーであるエイズ孤児のことを知識層や政治に訴えていくということは考えていないのですか。
門田 それは日本と違って難しいと思います。文化が全く違いますから。知識層よりも村の長老のような立場の人がすごく支持されている場合もあって。
――その人が言うことなら「うん」といえるのは長老ですか。長老が言ってくれればお墨付きが得られるのでは?教会の神父さんとか。
門田 そういう方にも協力していただいています。でも教会の神父さんの中には、協力したいけどできない、という人もいます。 クリスチャンですが、宗教的な問題で、コンドームを使ってはいけないと言わなければならないのです。でも実際はコンドームの不使用が問題であるとわかっているので、ワークショップには全面的に協力できないが、邪魔はしないですよ、というスタンスです。
――長老以外で、影響力が大きい人はどのような人ですか。
門田 それはかなりローカルな政治家ですね。ワークショップをするときは、あまり政治の色がつかない程度に開催のあいさつをもらっています。 服部 政治力はNGOにとって怖いところがあります。権力者が「あのNGOに権力を乗っ取られる!」というような恐れを抱くと、NGOがつぶされることも十分有り得るのです 。
――近代化を推し進めている人たちにアプローチするのは難しいのですか。
門田 そういう政治家のような有力者には大抵敵対するところがあるので、政治の色がついてしまうと狙われたりもします。 例えば、Aさんという政治家とずっと一緒に活動しているとします。ある日、Bさんという政治家が出てきてAさんが転覆すると、一緒にPLASもはじかれてしまうんですね。「お前らはもう来なくていい」と 。
――会計報告はしていますか。
門田 HPやプロジェクトごとにドナーに報告を出しています。
加藤 今やれているのはエイズ孤児の教育支援と先ほどお話した啓発活動です。もう一つのテーマとしては、母子感染自体を抑えたい。どう取り組むのかということを調査していて、どこの段階で取り組んでいくのか先日決めたところです。具体的には09年の夏からです 。
――つまり水際で止めようということですね。
加藤 はい。エイズ孤児というのは感染の有無にかかわらずエイズ孤児なんです。けれどもやはり感染している子どもというのは一つの悲劇ですので、それを止められるのであれば止めたいというところです。 もう一つは今は小さいコミュニティーレベルでやっているので、それをどう広げていくか、州などのレベルにどう広げていくか話し合っています。
――感染マップは作っていますか。
加藤 エイズ孤児が州レベルでどの程度というのは公式に出ていません。エイズの感染率のデータは国の保健省から出ているのですが、エイズ孤児のデータは取られていないですね。ユニセフやWHOは国レベルですし。自分たちでできればいいのですが、まだできる規模ではありません。
門田 公的なデータもどれくらい妥当かはわかりませんが 。
――PLASが目指すものは?
加藤 事業をする上で、成果を測定するために、何を指標にしていくか見つけていくことも今の課題です。数字にしにくいものですが、数字にしていかなければならない、と認識しています。 頂いた資金の100%を現場で活用できるわけではなく、一部は日本の管理費にも充てられる、ということにもご理解いただけるように尽力したいと思います。
門田 エイズ孤児の支援といっても、私たちがエイズ孤児をとりまく状況をこう変えたい!というのではなくて、現地の人がやることに寄り添いたいというのが、私たちのやりたいことです。そして、現地の人たちにまねしてもらえるような、エイズ孤児支援の事業モデルを作っていきたいです 。
※ウガンダではルウェロにてエイズ孤児支援事業を2008年8月より開始しました。
http://plas-aids.org/activities/uganda.html
※ケニアでは2007年より、ニャンザ県のウクワラで農業によるエイズ孤児就学支援事業を行っています。
http://plas-aids.org/activities/kenya.html